研究課題
本調査研究の目的は、87Rb-87Sr系、147Sm-143Nd系などの放射壊変系同位体分析を、熱水鉱床、堆積鉱床などの多様な鉱床に適用し、得られた同位体初生値と年代値に基づいて鉱床成因解析を行うことである。具体的には、大陸縫合帯であるイラン国内における火成活動と鉱床生成の関連性を明らかにするため、ザグロス山脈北西部およびアルボルズ山脈西部を対象に現地調査を行い、鉱石、鉱床母岩、貫入火成岩などの化学分析・同位体分析を実施し、新しい同位体地化学探査の実用化を目指している。2年目はザグロス山脈北西部を対象とし、平成30年4月(11日間)および10月(11日間)に現地調査を行った。調査地域は、ザグロス造山帯サナンダジ-シルジャン帯北部の"若い"花崗岩体とその周辺の火成岩体である。4月の調査は、協力者2名(日本側の大学院生1名、イラン側の研究者1名)で、10月の調査は、代表者、分担者1名、協力者4名(イラン側の研究者2名と大学院生2名)の計6名で実施した。4つの地域で採取した花崗岩および閃緑岩の試料のうち約20試料について、名古屋大学で化学分析とRb-Sr、Sm-Nd系の同位体分析、LA-ICP-MSによるジルコンの微量元素分析を行った。マリバン地域の花崗岩のSr-Nd同位体初生値、微量元素組成と、ジルコンの微量元素組成について詳細に解析を行った結果、約100 km北に産出するバネ地域の"若い"花崗岩に多くの点で類似性が確認されるとともに、違いも確認された。この類似性と相違性は、サナンダジ-シルジャン帯北部の第三紀のマグマ活動の変遷についての手掛かりとなるものであり、重要な成果である。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記載した平成30年度(2年目)当初の研究実施計画は順調に進展している。平成29年度(初年度)の研究実施計画で予定しながら実施できなかった微小領域の化学分析と同位体分析のための手法確立は完了し、初年度末の時点で遅れていた点は解消した。自己点検評価としては、予定していた実施内容は全体としては概ね達成しているものの、やや遅れている点と、当初の計画以上に進展している点の両方を含んでいる。その具体的な内容は次のとおりである。(やや遅れている点) 平成30年度分の研究実施計画で当初予定していた成果公表(論文)のうち、大半が順調に投稿、公表が進んでいるが、予定した論文の一部の投稿が遅れている。(当初の計画以上に進んでいる点) 年度当初には予定していなかった、アルボルス山脈からザグロス山脈に広がるAstara-Baneh構造帯の金・モリブデンなどの多金属鉱床についても多くの知見が得られた。この鉱床母岩の化学組成、Sr-Nd同位体組成、ジルコンU-Pb年代(30~20 Ma)の結果は、この地域の火成活動モデルを大幅に改変するものであり、鉱床成因解析を進める上でも極めて重要な成果である。これらの成果に関する論文は、現在投稿中(Rabiee et al., submitted.)であり、平成31年度中に公表できる見通しである。平成30年度の研究実施計画は、以上のとおりおおむね順調に進展しており、令和元年度以降の2年間で、当初の研究目的を十分に達成できる見通しがある。
令和元年度の現地調査は5月と10月に実施する予定であり、すでに準備を進めている。平成30年度に調査を実施した西アゼルバイジャン州のウルミエ湖南岸付近からクルジスタン州西部の再調査も実施する。これは、平成30年度の分析結果と先行研究の結果に矛盾が生じたため、フィールドにおける確認作業を行うためである。さらに、クルジスタン州タカブ地域からゴルベ地域の錫・タングステンが産出する地域を中心に詳細な現地調査を行う予定である。初年度から2年目では、比較的"若い"火成岩を中心に調査、分析を行ってきたが、さらに、この地域の基盤岩となっている"古い"花崗岩類についても調査、分析を開始する予定である。これは、"若い"花崗岩のマグマ源を解析する上で、その周辺に分布する基盤岩との対比が必要となってきたためである。このように、当初予定していなかった地域についても現地調査の対象を広げ、4年間の研究期間内に当初予定より多くの地域の調査、またはより詳細な調査を進めることを検討している。成果公表については、当初予定以上に進んでいるものがある一方、投稿が一部遅れているものもある。これらも含めて、令和元年度中に2編ないし3編の論文を投稿する予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 8件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
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