研究課題
本調査研究の目的は、Rb-Sr系、Sm-Nd系などの天然の放射壊変系同位体の分析を、熱水鉱床、堆積鉱床などの多様な鉱床に適用し、得られた同位体初生値と年代値に基づいて鉱床成因解析を行うことである。具体的には、大陸縫合帯であるイラン国内における火成活動と鉱床生成の関連性を明らかにするため、ザグロス山脈北西部およびアルボルズ山脈西部を対象に現地調査を行い、鉱石、鉱床母岩、貫入火成岩などの化学分析・同位体分析を実施し、新しい同位体地化学探査の実用化を目指している。3年目は、2019年4~5月(11日間)および10月(10日間)に現地調査を行った。調査地域は、ザグロス造山帯北西部の白亜紀花崗岩体(ゴルベ地域、ウルミエ湖周辺)と第三紀・第四紀の火山岩類(タカブ地域、サハンド地域)である。4月の調査は、代表者、分担者1名、協力者6名(日本側の大学院生1名、イラン側の研究者2名と大学院生3名)の計8名で、10月の調査は、代表者、 分担者1名、協力者4名(日本側の大学院生1名、イラン側の研究者3名)の計6名で実施した。採取した花崗岩、閃緑岩、安山岩の試料について薄片観察を行った後、名古屋大学で化学分析とRb-Sr、Sm-Nd系の同位体分析、LA-ICP-MSによるジルコン年代測定を行った。タカブ地域の火山岩類のSr-Nd同位体初生値、微量元素組成とジルコン年代について詳細に解析を行った結果、プレート衝突に伴う第三紀のマグマ活動が複数のステージに分類されることが明らかとなった。このマグマ活動(マグマ源)の違いはザグロス造山帯北西部の鉱床成因解析の重要な手掛かりとなるものであり、本調査研究3年目の重要な成果である。本研究成果に関する論文は執筆中であり、2020年夏頃までに国際誌に投稿する予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
交付申請書に記載した2019年度(3年目)当初に予定していた研究実施計画の内容は十分達成している。予定していた春と秋の2回の現地調査、採取した試料の化学分析および同位体分析は当初予定どおり完了し、2018年度および2019年度の分析結果に基づく論文執筆は順調に進み、年度当初に予定していなかった研究も含めて、2019年度の研究は当初計画以上に進展している。その具体的な内容は次のとおりである。(1)イラン北西部における希土類元素(レアアース)の資源ポテンシャルに関する評価を実施した。これは、年度当初には予定していなかった研究である。本調査研究(H29~R02)およびH25~H28の基盤研究(B)で積み上げてきたイラン北西部に広がる花崗岩の希土類元素濃度データをコンパイルし、希土類元素の高濃度分布地域と火成活動、テクトニクスとの関係を明らかにするとともに、資源ポテンシャルの高い地域の抽出を試みた。これらの成果に関する論文は、受理されており、2020年度中に公表される予定である。(2)2019年度に公表された論文以外にも、印刷中(in press)の論文は7編、投稿中の論文は3編あり、順調に成果公表が進んでいる。2019年度の研究実施計画は、以上のとおり当初の計画以上に進展しており、最終年度(2020年度)で当初の研究目的を十分に達成できる見通しがある。
2020年度(最終年度)の現地調査は10月に実施する予定であり、準備を進めている。研究代表者、分担者がイランでの現地調査を実施できない場合は、現地の研究協力者と連携して、現地協力者が現地調査、試料採取を進める。昨年度までに調査を実施した西アゼルバイジャン州のウルミエ湖周辺からクルジスタン州西部の再調査および追加試料採取を主に実施する。この追調査は、これまでの分析結果から当初予想していなかった新たな知見が得られる可能性が出てきたため、その可能性を確認することが目的である。また、これまで鉱床母岩としての火成岩の成因解析だけでなく、マグマ活動に関わる深部流体の解析も行うため、昨年度までに採取した火山周辺の地下水試料(温泉水)の化学分析、同位体分析にも新たに取り組む。10月には、イランの研究協力者との共同現地調査だけでなく研究総括を含めた研究打合せを予定しているが、実施できない場合に備えて、すでにメール等で緊密に連絡を取り合い、最終年度の研究が滞りなく推進できる体制を整えている。成果公表については当初予定以上に進んでおり、2020年度も3~4編の論文を投稿する予定である。
すべて 2019 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 6件、 査読あり 6件) 学会発表 (3件)
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