研究課題
1)中間宿主のモニタリング: 前年度に続き、ケニア国ビクトリア湖湖畔のンビタ及びルシンガ島5地点において、2週間毎にスクーピングによるマンソン住血吸虫の中間宿主である淡水性巻貝の採集を行った。次いで、シェディングによる感染の有無を調べ、採集された貝を乾燥標本としてナイロビに送付し、形態を記録(計測と写真撮影)し、各採集地点毎に最大50個体からDNAを抽出した。抽出DNAはLAMP法によるマンソン住血吸虫DNAの検出に供された。その結果、マンソン住血吸虫の貝への感染率は雨季に高く(60~80%)、乾期に低い(0~10%)傾向が認められた。要因として雨量の増加によるビクトリア湖の水位変動が考えられた。2)環境DNAを用いた湖水の感染リスクの評価: 現地の湖水から環境DNAを検出するために濾過手法の改善に着手した。まず水槽で環境DNAのサイズ分布を計測し、3.0µm程度の大孔径フィルターで環境DNAを効率的に捕集できる可能性を見出した。本結果を利用して、ヴィクトリア湖岸の4箇所で5種類の濾過法をテストし、孔径2.7µmのガラスフィルターを用いた場合に検出感度が高まることが明らかになった。3)物理環境: 2017年5月にンビタとルシンガ島を結ぶ橋が完成し、陸橋が撤去された。陸橋撤去による水流変化のためか、数ヶ月後には我々の設定したルシンガ島の採集地点の一つが消失し、また他の地点では著しい貝密度の低下が認められた。これらの変化は、人的活動が貝集団のダイナミクスに影響を与えた可能性を示唆する。4)住血吸虫症の伝搬状況のモニタリング: 同地域で稼働させているサーベイランスシステムを用いて無作為に抽出された子供を対象として、糞便内虫卵検査を行い、感染率、感染強度の時空間分布に関する基盤データを得た。尿を使用した住血吸虫症の伝搬状況の評価には著しい進捗が認められた。
2: おおむね順調に進展している
1)中間宿主のモニタリングは順調に進捗している。2017年4月にンビタとルシンガ島を繋ぐ陸橋が撤去され、貝の繁殖地が消滅したり貝密度が極端に低下したりと大きな変化が認められたが、近隣に新しい採集地点を設定し、引き続き2週間毎の調査を行うなど、その変化に柔軟に対応できている。またマセノ大学との共同研究については、2018年9月に調査許可の更新を行った。2)環境DNAを用いた湖水の感染リスクの評価に関して、前年度までにその必要性が判明した濾過手法の改善に取り組み、大孔径のフィルターを用いて住血吸虫の環境DNA検出に成功した。今後は中間宿主の環境DNA検出に取り組む予定である。3)中間宿主貝の定点調査対象4地点での水質汚染は全体として少ないものの、ある地点で高い濃度のアンモニアが検出され、家畜等の糞尿等の流入が示唆されるなど、物理環境の変化が住血吸虫伝播に与える影響のモニタリングも順調に進んでいる。4)同地域で稼働させているサーベイランスシステムを用いて、住血吸虫症の伝搬状況のモニタリングは順調に進展している。尿を使用し(可溶性虫卵抗原SEAに代わり、組換え抗原を用いた)新規スクリーニング法による住血吸虫症の伝搬状況の評価に関しては、著しい進捗が認められた。
これまでの結果から、人為的な環境変化により、住血吸虫中間宿主の貝の密度が大きく変化することが明らかになった。今後もモニタリングを続けるとともに、これまでに撮影してきた貝の形態写真から体サイズを測定し、その季節変動から貝の繁殖期を推定する予定である。前年度の研究より、環境DNAの評価のために中間宿主貝や住血吸虫由来のDNAを多く含む分画を明らかにして、効率のよいフィルター捕集や選択濃縮の方法の検討が課題となっていた。本年度は濾過手法の改善に取り組み、大孔径のフィルターを用いて住血吸虫の環境DNA検出に成功した。今後は中間宿主の環境DNA検出に取り組む予定である。陸橋の撤去ならびに水流の回復により、貝の生息域の消失や著しい貝密度の低下などが認められるなど、物理環境の変化が住血吸虫伝播に与える影響が明らかになってきた。新たに設定した貝採集地点、ならびに影響の少ない地点で引き続き貝の採集を行なっていく。可溶性虫卵抗原SEAに代わり、組換え抗原を用いた新規スクリーニング法による住血吸虫症の伝搬状況の評価に関しては、さらに研究を推し進めていく。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
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