研究課題
当該年度では、ベトナムの調査対象地域の36家族98名の住民糞便検査を行った結果、その70.4%もの住民がmobile耐性遺伝子mcrを持つコリスチン耐性大腸菌を保有している事が明らかとなった。また、当該住民が飼育している家畜(n=72)のほぼ全例に相当する95.8%からmcr陽性コリスチン耐性大腸菌が検出された。このような極めて高いコリスチン耐性菌の検出結果は、当該調査地域が高度にコリスチン耐性菌で汚染されていることを示唆し、今後の耐性菌蔓延対策が喫緊の課題であることを示した。分離されたこれらのコリスチン耐性株間に類似する系統関係は現時点では見出されていない。コリスチン耐性分離株のゲノム解析から、豚よりmcr-3を有するIncFIIプラスミド保有大腸菌が分離された。本mcr-3遺伝子は、近年新たに見出されたコリスチン耐性遺伝子の1つで、ベトナムにおけるコリスチン耐性の多様性を示すものである。分離された耐性菌のゲノム解析より、mcr周辺遺伝子構造の菌株間での比較解析を行った結果、一定の構造パターン(ISApl1-mcr-PAP2-ISApl1)がプラスミドと染色体の双方に見出された。また、これら耐性遺伝子トランスポゾンユニットの一部が欠落した構造も一部分離株のプラスミドに散見されたため、耐性遺伝子の伝播と保持にどのように関わってくるか、蔓延機序との関連からも今後さらなる解析が必要であることが示された。
2: おおむね順調に進展している
研究対象地域におけるコリスチン耐性菌によるコミュニテイの高度汚染が明らかとなり、当初予測した以上の汚染(住民の70%、家畜の95%)が明らかとなったが、研究自体は当初計画通りの研究進捗となっている。ゲノム解析の進捗ならびに新規mcr-3耐性遺伝子を見出し、論文発表したことも研究が順調に進展していることを物語っている。
これまでの研究で明らかとなったベトナム地方住民と当該地域家庭飼育家畜の驚くほど高いコリスチン耐性菌汚染と、これら検体より得られた分離株のゲノム解析情報を、地理的社会的背景の大きく異なる地域より分離された耐性菌との比較解析を行う事により、耐性菌蔓延機序の解明に繋げる。具体的には、エクアドル地域コミュニテイより分離されたコリスチン耐性株との菌性状、遺伝子性状を比較解析する。耐性菌蔓延の安定性において重要な要因となる耐性遺伝子リザーバーの解明は、蔓延機序を解明する上で重要である。今後、腸管細菌叢の主要構成細菌である偏性嫌気性菌の耐性遺伝子リザーバーとしての役割の検討を行う。具体的には、当該地域住民糞便中の偏性嫌気性菌分離とその耐性遺伝子保有状況の検討を実施する。
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