研究課題/領域番号 |
17H01694
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村尾 美緒 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (30322671)
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研究分担者 |
添田 彬仁 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (70707653)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 量子アルゴリズム / 量子計算 / 高階量子演算 / 関数型量子プログラミング |
研究実績の概要 |
本研究では、関数型量子プログラミングの可能性を探索することにより、新たな量子情報処理の特性を解明することを目的として、量子演算を入力として量子演算を出力とする関数である高階量子演算の量子コンピュータ上での実装可能性や近似的実装に必要なリソースの解析を進めている。特に、入力となる量子演算の古典的記述を経ずに、ブラックボックスとして与えられる入力量子演算に対して高階量子演算を直接実行しうる量子情報処理の特性(匿名性)を生かした新たな量子アルゴリズムを探索してきた。本課題の初年度にあたる今年度は、関数型量子プログラミングの基本構成要素となりうる基本的・汎用的な高階量子演算であるユニタリ変換の共役化・逆変換・転置変換を考察した。3次元以上の量子系においては、ブラックボックスで与えられたユニタリ変換を1回のみ用いて共役化・逆変換・転置変換を確率1で正確に実装することは不可能であることが先行研究で知られている。そこで、同じユニタリ変換を実装するブラックボックスが複数回使用できる場合を考え、ブラックボックスの使用回数を新たなリソースとしてユニタリ変換の逆変換・転置変換を実装する量子アルゴリズムの研究を行った。その結果、量子port-based teleportationを応用することで、ブラックボックスを並列的に用いて一定の確率で転置変換を実装する量子アルゴリズムを発見した。さらに、ブラックボックスを順序づけて使用することによって、ブラックボックスの使用回数を増やすと指数関数的に成功確率を1に近づけることができる新しい量子アルゴリズムを提案することに成功した。この量子アルゴリズムと、我々が以前示したユニタリ変換の共役化アルゴリズムを組み合わせることで、関数型量子プログラミングにおいて有用な逆変換(undo)を効率的に実装する量子アルゴリズムが構成できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の実施計画における中心的テーマであった、ユニタリ変換に対する基本的・汎用的な高階量子演算の効率的な実装方法の探索について、関数型量子プログラミングにおいて重要なユニタリ変換の逆変換を実装する効率的な量子アルゴリズムの提案に成功することができた。また、研究を取りまとめている段階であるために研究実績の概要には記入していないが、第二の研究テーマである高階量子演算の応用について、匿名性を保ったブラックボックスの判別問題を考察し、高階量子演算を用いた場合の最適確率を求めることに成功した。この研究の過程では、ブラックボックスで与えられた量子演算に対して、ブラックボックスの古典的記述を経ずに、量子演算から直接目的の情報のみを引き出すという、量子演算の「量子的学習」に対する高階量子演算の量子測定への応用の可能性を示すことができ、非常に興味深い発展可能性を持つ方向性を示すことができた。さらに、分散量子情報処理における並列性・因果性・非局所性に関する解析も進行中であり、来年度には取りまとめを行う目処が立っている。以上のことを考慮すると、本研究課題は、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究により、逆変換・転置変換を実装する高階量子演算においては、ブラックボックスを並列で使用するか、順序づけて使用するかによって実装の成功確率が変化する場合の可能性が示された。我々が以前に示したユニタリ変換の共役化アルゴリズムでは、次元+1の個数のブラックボックスを並列に使用することで、正確なユニタリ変換の共役化が確率1で成功しており、ブラックボックスを順序づけて使用する必要がないことと対照的である。この違いは、ユニタリ変換の共役化とユニタリ変換の転置変換を表すChoi演算子の性質の違いに起因する。より効率的な量子アルゴリズムを探索するためには、ブラックボックスの順序性の違いによる最適成功確率を求めることが今後の重要な課題となる。解析的な最適成功確率の導出は一般的には難しいと考えられるため、当初の計画にはなかったが、解析的な考察に加えて数値計算も用いて研究を進める方針に変更する。そのために、まず、複数回ブラックボックスを使用する高階量子演算について、高階量子演算を記述する量子コムのChoi演算子や、Oreshkov ら示した因果律に従う量子回路では表されない量子プロセスを表すChoi演算子に対して半正定値計画法を用いた定式化を行う。そして、半正定値計画法を数値計算によって実行し、最適化により成功確率を求める。今年度の予算で半正定値計画法の実行に適した、多量のメモリを有するワークステーションを導入したので、これを用いて研究を数値計算を推進する。
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