研究課題/領域番号 |
17H01704
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研究機関 | 統計数理研究所 |
研究代表者 |
中野 慎也 統計数理研究所, モデリング研究系, 准教授 (40378576)
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研究分担者 |
伊藤 耕介 琉球大学, 理学部, 准教授 (10634123)
長尾 大道 東京大学, 地震研究所, 准教授 (80435833)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 時空間統計 / 自然災害 / リスク解析 / 台風 / 地震動 |
研究実績の概要 |
本研究課題は,[課題1] モデリング手法,計算アルゴリズムの開発,[課題2] 台風データ駆動型シミュレータの開発,[課題3] 地震動データ駆動型シミュレータの開発の3つのサブ課題に分けて進めている. [課題1]では,データ駆動型シミュレータを表現する階層モデルから仮想シナリオを生成するサンプリングの効率化を図るため,前年度に開発した球面上のベクトル場の表現・推定手法に重点を置き,理論の精緻化と有効性の実証を進めた.地球のような球面上のベクトル場は,流れ関数,ポテンシャル関数という2つのスカラー関数を用いて表現できる.特に,非圧縮性の流れ場は流れ関数のみを用いて表すことができるので,流れ関数を球面上のradial basis function network (RBFN) で表現することにより,球面上における非圧縮性の複雑な速度場を比較的少ない変数で効率的に記述することができる.本年度は,この手法の理論を整理するとともに,ベクトル場の表現性能を実証するため,超高層大気の流れ場の推定に適用し,論文として発表した.一方,複雑な階層モデルのパラメータ推定法として,アンサンブル変分法と呼ばれる手法に着目し,非線型問題における収束性について理論的検討を行った. [課題 2]では,[課題1]で開発したベクトル場の表現手法に基づいて,台風の時間発展を模擬する確率モデルを記述し直し,「台風データ駆動型シミュレータ」のプロトタイプを作成する作業を進めた.当初の単純なガウス過程回帰に基づくモデルでは,使用するデータの量を増やすと推定に膨大な時間が掛かる問題があったが,スカラー関数を表すRBFNを導入することで,推定の効率化を実現した. [課題3]においても,[課題1]で開発したベクトル場の表現手法を導入し,任意の点の地震動を模擬する階層的確率モデルの推定の効率化について検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初考えていた単純なガウス過程回帰では,使用データ量の増加に対して推定の計算コストが著しく増大するという課題があったが,課題1において効率的にベクトル場を表現する手法の開発が進展したため,大規模データを用いたデータ駆動型シミュレータ実現への道筋をつけることができた. 課題1の進展に伴って,課題2, 課題3に応用研究に若干の軌道修正の必要が生じたため,課題2,課題3は当初計画よりも遅れ気味となっているが,全体としてみれば概ね順調に進んでいると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
[課題1]では,新たに開発したRBFNによるベクトル場モデルに基づき,仮想シナリオを生成するサンプリング手法の開発とその高速化を進める.また,仮想シナリオ生成のために必要となる時間発展のモデリングに関して,近年 echo state network などの有用なモデルがいくつか提案されており,今後,仮想シナリオ生成に応用するための調査および理論的検討を進める. [課題2]では,[課題1]で開発したRBFNによるベクトル場モデルに基づき,「台風データ駆動型シミュレータ」の開発を進める.また,[課題1]の進展に応じて,時間発展モデルの導入,実装も行う. [課題3]においても,[課題1]で開発したRBFNによるベクトル場モデルに基づいて地震動を模擬する階層的確率モデルの構築を進めるとともに,[課題1]の進展に応じて,時間発展モデルの導入,実装も行う.
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