研究課題/領域番号 |
17H01705
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研究機関 | 統計数理研究所 |
研究代表者 |
松井 知子 統計数理研究所, データ科学研究系, 教授 (10370090)
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研究分担者 |
村上 大輔 統計数理研究所, データ科学研究系, 助教 (20738249)
山形 与志樹 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球環境研究センター, 主席研究員 (90239864)
AMES MATTHEW 統計数理研究所, 統計的機械学習研究センター, 特任助教 (90794769)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 空間・環境統計 / 時空間解析 |
研究実績の概要 |
本研究は、空間的かつ時間的に粒度の異なる計測データを統合的に活用して、大都市圏での地球温暖化対策を実現することを目指し、地表面温度の高度な時空間解析技術の開発に取り組む。具体的には、低分解能の地上気象観測による気象要素(気温、風速、湿度など)の時系列計測データに加えて、高分解能の人工衛星による地表面温度の時系列計測データを用い、確率微分方程式、及び状態空間モデルを基軸とする統計解析手法を高度に融合させることによって、これまで捉えられなかった大都市圏における地表面温度分布の時空間変動の高精度な推定方法と、厳しい熱波状況などの極端な極値事象発生に関与する要因の高度な検出方法の開発を行う。将来的に本技術は大都市圏での地球温暖化対策立案に貢献することが期待される。 本研究は方法と応用の2チーム体制で実施する。方法チームは確率微分方程式、及び状態空間モデルを基軸とする高度解析手法を研究開発する。応用チームは人工衛星による熱画像、地上気象観測による気象要素の計測データの収集と地表面温度の観測実験を実施し、熱波状況のシミュレーションと解析実験を行う。また、都市関連プロジェクトとの国際連携を実施する。両チームが協働し、地表面温度の高度な時空間解析技術の開発を行い、大都市圏における地表面温度分布の時空間変動の高精度な推定と、厳しい熱波状況などの極端な極値事象発生に関与する要因の高度な検出を行う。本研究に関連する都市計画、統計解析、信号処理の各分野の国際アドバイザリーボードを設置し、本研究成果に関するピアレビューを行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
方法チームは、昨年度の検討結果を元に、地表面温度の時空間変化を精度よく捉えるための時空間統計モデルを開発した。具体的には、地表面温度の長期的・安定的(数年~数10年単位)な時空間パターンを捉えるためのガウス過程、及び地表面温度の短期的・非安定的(単年~数年単位)な時空間パターンを捉えるためのGeneralized Hyperbolic(GH)過程を組み合わせた状態空間モデルを新規に開発した。さらに衛星観測熱画像や参加型気象観測情報(例えばweather news社のウェザーリポート)のような高分解能・高頻度の熱波関連データを活用した熱波モニタリングへの応用を見据え、上記モデリング手法を大規模データに適用できるように高速化した。具体的には、データ観測時点毎に以下を逐次的に行う方法を開発した:GH過程を推定するためのサンプリング;低ランク近似したガウス過程の推定。時点tの標本数がNtの場合、従来の時空間統計モデルの計算量はNt3のオーダーで指数的に増大していくが、上記手順の計算量はNtのオーダー(線形)であり、大規模データにも適用可能である。 応用チームは、上記の方法チームが開発したモデリング手法を東京大都市圏の地表面温度の時空間マッピングに応用し、その有効性を検証した。本手法を用いることで、地表面温度分布が高精度にマッピングされることを確認した。それに加え、(i)地表面温度の長期的な時空間変化パターン(ガウス過程)と(ii)短期的な同パターン(GH過程)が直観と整合する形で分離されることを確認した。(i)からは、東京都心や熊谷市周辺の内陸部で定常的に地表面温度が高く、近年その傾向が顕著になってきていること、(ii)からは、局所的な地表面温度の上昇が多くの年で見られることなどを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
方法チームは、確率微分方程式を基軸とする手法について、オルンシュタイン=ウーレンベック過程などのガウス過程を取り入れ、時空間過程の本質を平均、分散、ジャンプ、自己励起などを表す基礎的な項により定式化して、トップダウンにモデルを設計することを試みる。さらに極値過程の導入により極値事象への対応を行う。応用チームは、前年度に引き続き計測データの取得・整備、地表面温度の観測実験を行う。 さらに、方法と応用の両チームが協働して、GCPの海外の主要関連研究者の協力を得て、各種センサーからの計測データを用い、衛星熱画像を高精度に時空間補間し、地表面温度分布の時空間変動を高精度に推定する方法を開発する。その際、計測データの時空間解像度、種類、精度を反映させた地表面温度分布のモデルを設計する。また、厳しい熱波状況などの極端な極値事象発生に関与する要因を高度に検出する方法を開発する。 国際アドバイザリーボードの参加のもと、本研究成果を報告し、アドバイスを得るためのオープンな小規模のワークショップを開催する。また、それらアドバイスと国際アドバイザリーボードによるピアレビューを実施する。
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