研究課題/領域番号 |
17H01732
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
新熊 亮一 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (70362580)
|
研究分担者 |
笠井 裕之 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (40312079)
矢守 恭子 朝日大学, 経営学部, 教授 (20350449)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 実空間ナレッジ / 可推定性 / 可代替性 |
研究実績の概要 |
今後の情報通信技術には,身近な実空間のナレッジをきめ細やかに届けることが期待される.例えば,UAVが防犯や防災に関わるでータを収集し,予測を行なうことで危険を回避することができる.しかし,実空間に関わる膨大なデータを無差別に流入させると通信NW(ネットワーク)がボトルネックになる問題がある.そこで,「実空間ナレッジが求められる時代の新たなデータ重要度による通信制御」の研究を行なう.具体的には,最新の機械学習と経済学に基づくデータ重要度モデルを構築し,データの可推定性と可代替性に応じ情報通信資源を割り当てるという独創的な制御手法を提案する.上記UAVを想定した評価によりナレッジの取得遅延を短縮できることを示す. また,モバイルセンサ基盤により収集されるデータを用いた行列・テンソル補完による交通データの可推定性を行うため,大規模データを対象とした解析手法のための最適化手法の確立と理論的収束解析を行った.特に,データの構造に着目し,直交性や正定値性,非負値性を考慮した最適化手法を提案するとともに,それらのオンライン・確率的学習手法を提案し,理論的解析(収束性および収束レート解析)を与えた. 通信品質の重要度をユーザ効用ならびにネットワーク効用に基づき設計し,無線ネットワーク環境下における通信品質制御を提案した.本研究の特徴として,ユーザの意思決定や行動を利用し,通信品質制御を行う点が挙げられる.特に,データの優先度を効用に基づき設計することで,機械制御ではなし得ない範囲での通信制御が行える点である.具体的には,ユーザに提示する情報を制御することで,ユーザの意思決定の変容を促し,システム全体やユーザ自身の利得を向上させる行動を取らせる.実空間から得られた情報を用い,実空間を移動させることで,無線ネットワークの諸問題(干渉や競合)を解決することが可能となる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自律分散移動するモバイルデバイスがセンサとしてデータを収集し,それらを集約することで実空間ナレッジが形成される.機械学習を用いることで,欠損データの補完や未来データの予測を行ない,実空間ナレッジを形成できる.しかし,通信NWがボトルネックになる問題があるため,データの重要度を予め評価し,重要なデータを高優先度で転送する手法を提案した.具体的には,特徴選択という手法により重要度を抽出する.これにより,重要度の変化を経済学の効用関数でモデル化し,通信NWやデータ提供に対する報酬を制御できるようになった. また,データ構造制約に着目した多様体上での最適化アルゴリズム提案とその収束性解析を行った.多様体上での最適化アルゴリズムを応用し,正定値対象行列多様体に基づくメトリック学習や,辞書学習・次元削減手法,Oblique多様体を用いたネットワーク設計手法を検討した.深層学習用の多様体上最適化アルゴリズムの共通評価基盤を構築し,オープンソース化した.さらに,データの非負値制約性を考慮した確率的最適化手法を提案し,その収束性解析を行った.また,データ肥大化を考慮したオンライン学習アルゴリズムの提案を行った. 一方で,自律的に移動するアクセスポイントを提案し,理論計算とシミュレーションによりスループットが増加する位置を明らかにした.次に,ユーザを実空間で移動させる手段として,情報提示の手法と情報の種類を検討し,情報の次元を増やすことでユーザの行動変容率が高くなり,ネットワーク全体の効用が高くなる位置への誘導が行えることを示した.さらに,拡張現実がユーザ体感品質に与える影響を明らかにするため,主観評価実験を行いその特徴を明らかにした.また,ユーザ行動を推定するための手段として,SNS上のつぶやきを解析し,実空間における通信品質情報の収集方法について検討した.
|
今後の研究の推進方策 |
モバイルセンサ基盤により収集されるデータとして,地点ごと時間ごとの防犯防災データを想定する.また,ナレッジとして一定期間収集されたデータにより生成された危険予知情報を想定する.時々刻々と変化するナレッジを提供するようなリアルタイム性も考慮する.研究項目ごとの検討は以下 のとおりである.1.データ重要度モデル 1-1.機械学習モデル:可推定性を取り扱う.これまで進めたa.理論構築,b.設計,c.実証の成果を「危険予知」へと発展させる. 1-2.経済学モデル:可代替性を取り扱う.これまで進めたa.理論構築,b.設計,c.実証の成果を「危険予知」へと発展させる. 2.アーキテクチャ a.要件定義:本研究の目標を達成可能な通信NWのアーキテクチャが,エッジコンピューティング,仮想スライスにおいてそれぞれどのような機能を有しているべきか,また,エッジ-クラウド,エッジ-仮想スライス間でどのような制御メッセージのやりとりが必要か,要件定義を行なう.b.設計:要件定義に基づいたシステムの設計,プロトコルの設計を行なう. c.実証:設計されたシステム・プロトコルについて,システムオーバヘッドの計算を行なう. また,最終年度となる2019年度は,これまでの他の成果・知見と統合することで,実空間と通信ネットワーク模したシミュレーション環境上で実証をさらに進めていく.特に,実証結果と確立した理論的成果との比較・考察に重きをおき,さらなるアルゴリズム高度化・理論的検証を行っていく.さらに,情報の取得コストとモデル予測精度の関係に基づく,効率的情報取得制御手法について検討する. また,実空間からの情報収集と分析,とくにユーザ行動に影響を与える要因を明らかにする.さらに,拡張現実を含む情報提示方について検討し,主観評価実験などを実施することで提案方式の有効性を検証する.
|