研究課題/領域番号 |
17H01750
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小野 謙二 九州大学, 情報基盤研究開発センター, 教授 (90334333)
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研究分担者 |
高見 利也 大分大学, 理工学部, 教授 (10270472)
田上 大助 九州大学, マス・フォア・インダストリ研究所, 准教授 (40315122)
大島 聡史 九州大学, 情報基盤研究開発センター, 助教 (40570081)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 時間方向の並列化 / 放物型方程式 / フェーズフィールド法 / Parareal法 / 多重並列性 / フレームワーク / 逐次問題 / 反復処理 |
研究実績の概要 |
これまでの研究で、次の3つの成果を得ている。1)逐次問題の並列化の数理的な性質は「逐次計算を反復計算へ変換し、反復を重ね合わせて並列に計算すること」にあり、収束性は「粗視化積分演算と細かい積分演算の位相誤差に起因すること」を明らかにした。2)フレームワークの要件として、Parareal法の汎用化と多種多様な個別問題への応用の困難性への対応という2つの異なる特性を満たすことが必要であることが分かった。このことから、基本的な方程式の逐次処理部の並列コード化の詳細な手順書(導入編:チュートリアル,具体的テンプレート)と個別代表例(応用編)の整備の必要性)を整備することにした。(c)ムシの群れの行動のような相互作用が複雑(離散的、非線形、条件分岐、非連続等)な計算においても加速は可能であるが、より困難なものとなり、連続関数以外の変数を計算する問題への応用では課題があることが分かった。これらの成果により、逐次計算の並列計算化のための数理・フレームワークの指針を明らかにし、また応用面の拡大における課題も明らかにした。 数理的には、並列計算する領域長さのスケールと反復処理の多重性を利用することにより、さらに加速性を向上できる可能性があることが分かった。例えば,非線形現象の時間発展問題を陽解法にて細かい積分演算を実施している場合を考える。この時、粗視化積分演算を陰的時間積分とNewton-Raphson 法を使う場合、分割された時間領域の長さのスケールでのParareal法の反復計算と粗視化された時間刻み幅のスケールでのNewton-Raphson法の反復計算の2つの反復があり、異なるスケールでの2重の並列性を利用できることを意味している。またこの2つの並列性は直交しており、並列加速は相乗効果で効く。これは、逐次問題の並列計算化を進める上で有益な指針となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、初年度(H29 年度)に数理の検討を、H30年度にフレームワークの開発と応用事例の検討を、最終年度(H31年)に実装・評価・実証、幅広い実応用のための準備を中心に進めていくことなっており、進捗はおおむね計画通りである。 数理検討においては、すでに逐次問題の並列計算化の原理を明らかにし、さらに数理の拡張を目指しているところである。そこで、数理の要として明らかにした逐次計算の反復計算化、細かい・粗視化積分間の位相差対応、直交する複数の反復計算の拾い上げを基に、最終年度へ向けより多くの応用候補を分析し、その知見により数理の検討をさらに推し進める状況である。 フレームワーク開発においては、当初は固定されたソフトウェアのフレームワークを構想していたが、時間並列計算の特性研究から、以下に述べるように柔軟なものへと方針を変更し開発を進めている状況である。具体的には、フレームワークの要件が大枠としてParareal法的な反復処理を汎用的に支援することであるが、個別には多様な対応が必要なことから、固定フレームワークは利用者にとって扱い難いものとなると判断した。そこで、構築・実装 方法は、利用者の利便性を優先し、(a)基本的な方程式の逐次処理部の並列コード化の詳細な手順書と個別の代表例を整備し、書籍としてまとめつつある。 開発フレームワークの具体的な逐次計算問題への適用・実証(応用研究)においては、これまでムシの群れの行動のような相互作用が複雑(離散的、非線形、条件分岐、非連続等)で加速が極めて困難であることが推測される問題を中心に研究を進め、解が連続関数的でないもの加速は困難になる傾向があることを明らかにしてきた。このような知見及び数理、フレームワークの知見も含め、再度幅広い応用範囲を再検討し、研究全体を推進する段階と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
H31(最終)年度はフレームワーク・応用グループでの実装・評価・実証を進め、数理・フレームワークグループも含め全体で幅広い実応用のための準備を行う。具体的には以下の推進方法を取る。 幅広い実応用のための準備のため、数理・フレームワーク・応用グループでこれまでに得られた知見をもとに、再度、幅広い応用を分析し、応用の可能性を分析する。その時、多重スケール問題、反復法による固有値解析手法,、最適化法、カルマンフィルターなどシステム系の分野、ニューラルネットワーク学習、グラフ探索などの情報系分野等を対象にする。そして少数の応用を選び、実装・評価する。これらの研究により応用性の高い分野を明らかにすると共に今後の研究開発の挑戦的課題を抽出する。 以上の応用拡大の研究開発の成果から汎用的に有益である技術をチュートリアル、基本的なフレームワークへ取り込み機能を向上させる。またその成果から数理の要である逐次計算の反復計算化、細かい・粗視化積分間の位相差対応、直交する複数の反復計算の抽出の内容を検討し向上させる。 最後に成果を今後の発展方向の観点からまとめ、本分野の研究開発の発展を促進するともに成果を広めるものとする。
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