研究課題/領域番号 |
17H01754
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
酒井 宏 筑波大学, システム情報系, 教授 (80281666)
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研究分担者 |
田村 弘 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (80304038)
山根 ゆか子 大阪大学, 生命機能研究科, 特別研究員(RPD) (70565043)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 認知科学 / 神経科学 / 実験系心理学 / 情報工学 |
研究実績の概要 |
本研究は,物体形状の皮質中間表現を理解し,それが形成される神経メカニズムを解明することを目的とする。これを通して皮質における物体認識の形成過程を理解する。V4細胞は,単に図地分離または曲率等の局所形状を表現しているのではなく,両者を統合した物体形状の中間表現を形成しているとの仮説を検討している。自然光景を対象として,表現理解を目論んだサル電気生理実験を構成した。さらに,情報学的技法を利用して,発火の頻度とタイミングに内包される中間表現に対応する情報抽出を開始した。 H30年度に導入した計算機によって神経記録解析を実施した。同時に,H29年度に導入したGPGPU計算機によって,記録した神経信号から中間形状を表現するために要する情報論的特徴を解析した。記録した神経信号から,最適受容野・周辺構造を算出した。V4細胞の応答が図地によって変調する現象は知られていたが,図地のどのような空間配置が個々の細胞応答の変調を引き起こすかは知られていなかった。本解析によってV4神経細胞が実際にどのような図地に応答するのかが明らかになりつつある。Deep Learning を利用して自然物体識別における中間表現を解析した。特に,発火の頻度とタイミングに注目して,内包される情報を解析した。発火のタイミングが一定の情報を有していることが判った。また,大域・局所画像の逐次表示における図地反転知覚を定量的に測定するための心理物理実験を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの電気生理実験で得られた神経記録の解析を実施した。Deep Net を使ってスパイク頻度とタイミングの内包する情報の解析を行い,一定の結果を得ることに成功した。心理実験を実施して,自然画像パッチの図地知覚のしやすさを定量的に評価することに成功した。これと電気生理実験の結果を合わせることにより,神経細胞反応と知覚特性の関係を明らかにすることが可能になった。計算論的な研究によって,図地を符号化する神経細胞のもつ受容野・周辺領域が推定できた。これを処理の基礎ユニットとして,皮質における図地情報の算出・処理を記述するモデル構築が可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
中次視覚皮質における中間形状表現を探索するために,V2, V4神経細胞からの信号記録を得て解析を実施する。当初計画のV4からの記録に加えて,V2からの記録についても解析を行って,情報表現がどのように変化し,中間表現が構成されていくかを明らかにする。
H30年度に開発した面表現に対応する反応受容野および周辺領域の空間的構造を算出するアルゴリズムを利用して,V2, V4 神経細胞の受容野空間構造を算出する。V2, V4それぞれの神経細胞群の差異から,中間表現がどのように構成されていくかを示す。神経信号の次元解析を実施して,中間表現に寄与する細胞数を同定する。
大域情報および求心・遠心性神経機構の寄与を検討するために,心理物理実験・電気生理実験・計算実験の比較検討を実施する。計算実験ではCNNを利用して,その遠心性信号を制御することによって,それぞれの役割を同定する。計算実験と神経信号・心理実験の比較を実施することによって,神経機構における遠心性信号の役割を明らかにすることを試みる。さらに,これまでの解析を総合して,発火神経細胞が群としてダイナミックな神経活動をして中間形状表現を形成する神経機構モデルを提案する。
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