研究課題/領域番号 |
17H01761
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
鵜木 祐史 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (00343187)
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研究分担者 |
赤木 正人 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (20242571)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 聴覚メディア信号処理 / メディアクローン / 音声合成技術 / 聴覚センシング / 音響情報ハイディング / 音響電子透かし |
研究実績の概要 |
実世界の真正データから限りなく本物に近いものとして人工的に作られたメディアは「メディアクローン」と呼ばれる.近年,このメディアクローンが実世界やサイバー空間で流通され,社会的脅威となりつつある.特に,音声合成技術を駆使して産み出された本物そっくりな音声は,「なりすまし」や「改ざん」に悪用され,音声認証システムを突破するなど重大な社会問題を巻き起こしつつある.本研究の目的は,音信号のメディアクローン攻撃に対して,適切な防御策(なりすましや改ざんの検出)を実現するための聴覚メディア信号処理の基盤技術を確立することである. 本年度は,音声のメディアクローン生成・認識法を深く理解し,具体的な攻撃方法を模擬検討した.まず,音声に対し,発話内容を保存したまま音声の非言語情報(感情や話者性)を自然な形で変換する仕組みと,音声の話者性を保存したまま発話内容を変換する仕組みをそれぞれ深層学習モデルで実現した.原信号と変換処理後の音声との間の自然さの向上が今後の検討課題である.次に,線形予測法(LP)をベースとした音声分析合成系における音声改ざん等を防ぐための情報ハイディング法を検討した.ここでは, LP残差を利用したスペクトル拡散型音声情報ハイディング法とロバスト主成分分析法(RPCA)とフォルマント強調法を組み合わせた音声情報ハイディング法を実現した.また,特異スペクトル分析に基づく方法を利用した音声改ざん検出法を実現し,典型的な改ざん攻撃に対して耐性があることを確認した.最後に,メディアクローンで利用される重要な音響的特徴を検討した.ここではスパース符号化の一つであり,聴覚マスキング特性を加味したSpikegramを利用した音声電子指紋を検討した.この方法により,聴覚メディア情報に含まれる人工的な情報を,音響電子指紋を検出することで,メディアクローン化の手がかりを探ることができる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間では,音声のメディアクローンの生成・認識法を深く理解した上で,次の三つの課題に取り組むことを計画していた.1. 音声のメディアクローンを作成する際,何が最も重要な音響的特徴であるか明らかにする.2. ヒトが発する音と機械が発する音の音響的特徴の差異を明らかにする.3. 音響特徴に知覚不可能で頑健な秘匿情報を埋め込む仕組みをつくる. 当該年度では,課題1に関して,まずどのようにメディアクローンを作成することができるかを検討した.ここでは機械学習(Variational Autoencoder)を利用した音声の声質変換法を実現し,なりすましの一つとして音声変換が可能であることを確認した.次に課題2に関しては昨年度に引き続き,音質評価指標などを利用した音源情報の分析を行った.最後に課題3に関しては,音声情報で重要な特徴(音源や声道フィルタ特性)や聴覚的特徴(マスキング特性や知覚的スペクトル形状)に秘匿情報を埋め込む仕組みを検討した.また課題2の特徴への埋め込みのため,聴覚特性の一つである蝸牛遅延を活用した秘匿情報の埋め込みも検討した.以上から,当初の計画通りに実施できていると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の取り組みから,ヒトが発する声(音声だけでなく口唇や舌,鼻腔からでる人体雑音)と機械が発する音(例えば,AD/DA変換から生じる微小な定常的雑音やジッター・シマーのようなヒトには知覚できない位相変化をもつ音)の音響的特徴の検討も行うことで音声のメディアクローン攻撃を防ぐ方略を考えていく.また,今年度までに提案した音声情報ハイディング法を含め,音響的特徴に知覚不可能で頑健な秘匿情報の埋め込み・検出を可能とする聴覚的な情報ハイディング法を確立する.最後に,最終年度に向け,メディアクローンの検出のための,図(目的音)の秘匿情報と地(背景音)の音響電子指紋の検出方法について検討していくことで,研究の大きな前進を目指す.
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備考 |
14th International Conference on Intelligent Information Hiding and Multimedia Signal Processing (IIH-MSP-2018), Best Paper Award受賞
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