前年度では人間の動作モデルを設計し,動作の同期やずれの観点から注意分配の状態を分析を行った.注意分配のパターンと動作モデル内のパラメータとの関係性についていくつかの知見を得たとともに,注意分配を推定するにはさらに踏み込んだ分析が必要だということも確かめられた. そこで本年度では,顔・体幹・手の3部位の関係性を,顔と体幹・手と体幹の要素に分解した上で,体感を基準とした顔・手の動作特性の詳細なモデル化に取り組んだ. 顔の動作のモデル化では,装着型デバイスを用いて頸の皮膚を引っ張る刺激を,注意の強さを表すインデックスとしてユーザーに与え,その時の顔の回転角について調査を行った.その結果,顔向き動作は二次遅れ系でモデル化できることだけでなく,同じ刺激量でも顔向きの最終値はまちまちだが,そのばらつきは刺激量と一定の関係性があることが明らかとなった.注意分配度と動作の間に存在する曖昧性を扱う上で有用な定量的知見を得たことになる. 一方,手を動かす動作は,対象物間でのポインティング動作とみなした上で目標への到達を視覚的にフィードバック制御する閉ループ構造でモデル化した.モデルの適用性について分析を行ったところ,動作特性は顔と同じく二次遅れ系で,視覚認知は一次遅れ系で定化すると実際の動作を高精度に再現できることが確認された.加えて視覚認知に非線形な入出力フィルタを導入することで,目標値と現在指示位置との距離感を表せることも示唆された. これは曖昧な注意・不十分な注意しか手の動作に分配されていない状態をモデル化することに役立つと考えている.
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