研究課題/領域番号 |
17H01769
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
小林 耕太 同志社大学, 生命医科学部, 准教授 (40512736)
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研究分担者 |
古山 貴文 同志社大学, 研究開発推進機構, 特別研究員 (20802268)
飛龍 志津子 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (70449510)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 赤外レーザー / スナネズミ / フラビン蛍光タンパクイメージング / 人工内耳 / 補聴器 / 老人性難聴 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は近赤外レーザー人工内耳を開発することである。同人工内耳は従来型の電極を刺激プローブとして使用するものと異なり、低侵襲で聴覚を回復することを目指している。神経細胞膜中のイオンチャネルの多くは熱に対する感受性を持つ。近赤外レーザー光を神経細胞に照射することで、チャネルを加熱し(最大5℃)、活動電位を誘発することができる。生体外より聴覚末梢(蝸牛神経)をレーザーで刺激することにより、低浸襲・非接触で神経活動を誘発し、聴力を再建することが可能になると私達は考えている。 当該年度は(1)スナネズミを被験体として、レーザー刺激により知覚される周波数を変化させる手法および、経鼓膜的に蝸牛を刺激する手法と、その安全性の評価をおこなった。具体的には、X線マイクロCTを用いて光ファイバーの挿入部位を計測し、レーザーにより蝸牛の中間部(第2カーブ)から頂部を刺激仕分けることが可能であることがわかった。また、レーザーを外耳道に設置し経鼓膜的に蝸牛を刺激した場合にも蝸牛を直接刺激した場合と同様の蝸牛神経応答が得られることが分かった。同刺激手法を2時間以上継続した場合にも、鼓膜および蝸牛神経応答に障害は観測されなかった。(2)ニホンザルを被験体として、聴性脳幹反応およびの皮質由来の神経活動(Auditory evoked potential)の記録をおこなった。音声(coo call)に対する脳幹および皮質応答に成功した。EEG解析の結果、音声個体識別に相関するMMNが観測された。また発信源は頭頂葉および側頭葉であると推定された。さらに(3)ヒトを被験体として、これまでに作成したレーザーにより再建される音の「聴こえ」をシミュレートした音声は、言語情報だけでなく、音声のもつ感情や性別の伝達にも有効であることを示す結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スナネズミを被験体とする生理実験 レーザー刺激用光ファイバーが蝸牛のどの部位を刺激しているかについてX線マイクロCTを用いて計測した。外耳道から光ファイバーを挿入することで鼓膜越しに蝸牛中間部から頂部を刺激仕分けることが可能であることがわかった。さらに経鼓膜的に刺激する場合の安全性について計測した。十分な“聞こえ”を生み出すことが可能な強度のレーザーを長時間(2時間以上)持続的に照射した場合の聴覚脳幹応答の変化は、同時間音刺激した場合の変化と有意差がないことがわかった。
ニホンザルを被験体とする生理実験 ニホンザルにおいてレーザー刺激がどのような「聴こえ」をもたらすかを生理学的指標により定量化することを最終的な目的とし実験をおこなった。聴性誘発電位を頭蓋表皮より複数チャンネル(16ch)を用いて記録した。音声個体識別を訓練済みのサルを被験体として、Mismatch Negativity(MMN)の計測に成功した。EEGの解析により頭頂葉および左側頭葉がMMNの信号源である可能性が示唆された。今後、ヒトの実験結果を参考に音声を赤外レーザーにエンコードし、音声知覚を再建可能かについてEEG解析により検討することが可能になった。
ヒトを被験体とした刺激シミュレーション実験 レーザー刺激により再建される音の「聴こえ」をシミュレートした音声が、パラ言語情報(感情、性別、個体識別)を再現可能かについて実験的に検証した。シミュレーション音声は、音声のピッチをレーザーの周期として再現した。結果、4本以上のレーザー用いると想定した刺激により一般的な人工内耳音声と同程度の聞き取りを生み出せることがわかった。また、性別は8割程度、感情表現にはチャンスレベルを超えた知覚を生み出せることが示された。この結果はレーザー刺激がパラ言語情報の伝達についても一定程度有効であることを示唆する。
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今後の研究の推進方策 |
実験1:レーザーにより再建可能な「聴こえ」を聴覚末梢および皮質の神経活動から計測する(スナネズミを被験体とした研究) 近赤外レーザーを蝸牛神経に照射することで、どのような「聴こえ」を再建できるかについて実験動物を対象に検討する。レーザー刺激の出力、繰り返し周期、両耳間での出力差・タイミング差を制御することで音知覚をコントロールすることを目指す。聴覚生理実験の標準モデル動物であるスナネズミを被験体として用いる。レーザーがどのような「聴こえ」を生み出しているのか、神経活動の記録により定量化する。レーザー刺激に対する聴覚中枢の応答を、音刺激に対する応答と比較する。聴覚末梢の応答は蝸牛周辺部に留置した電極により、中枢の応答はフラビン蛍光タンパクの応答により定量化する。また来年以降に知覚内容を検討するため、固定化の動物を対象とした行動実験システムの構築をおこなう。
実験2:レーザー人工内耳が創りだす音声の「聴こえ」の検討・評価(ヒトを被験体とした研究) レーザー人工内耳により言語知覚を再建する手法を検討する。レーザーによって言語を知覚させるために、音声をレーザー刺激に変換し再生する必要がある。本研究では、その音声→レーザー変換アルゴリズムを開発・評価する。レーザー音声の聴き取り訓練による学習の効果および、聴き取りの訓練に伴う脳活動の変化をfMRIにより計測する。脳活動に基づく、最適な変換アルゴリズムの提案、学習段階の評定、脳活動の個人差に基づく学習方法の調整など、言語知覚の効率的な再建法の確立を目指す。また音声に含まれるパラ言語情報(感情)をレーザー刺激により効率よく伝達させる手法について開発・検討をおこなう。刺激として4モーラ単語(日本母語話者の会話コーパス)を用いる。レーザー刺激のパルス頻度および強度を変調させた「レーザー音声」および、人工内耳シミュレーション音を刺激として使用する。
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