研究課題/領域番号 |
17H01777
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
下田 宏 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授 (60293924)
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研究分担者 |
石井 裕剛 京都大学, エネルギー科学研究科, 准教授 (00324674)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 知的集中 / 室内気流 / 生理指標 / 温熱環境 / 分類学習器 |
研究実績の概要 |
(1) BAF要素が知的集中に与える影響の実験検討 昨年度までの実験の結果により、知的集中に影響を与える各種環境パラメータのうち、大きく影響を与えるのは風速・曝露時間等はもとより、室温や季節等の体感温度と関連する要因が大きいことが示唆された。特に季節が異なると身体の代謝が変わるため、同じ温熱環境条件でも気流の感じ方だけでなく知的集中にも影響があることがわかってきた。実際にBAFをオフィスに導入する際には、季節による違いを明確にしておく必要があるため、今年度は季節の違いによる影響の違いを実験により調査した。その結果、気流が心地よいと感じる夏の方が、気流を不快に感じやすい冬よりも知的集中を向上させる効果が有意に大きいことがわかった。
(2) 知的集中の程度を示す生理指標・行動指標の検討 昨年度の結果から、知的集中に関係の深い瞳孔径と心拍変動のHF・LF・HF/LF比を利用するとともに、将来的に非接触で計測が可能な頭部運動も加えて、知的集中とこれらの生理指標・行動指標との関連を調べた。具体的には、指示により知的集中を変化させたときと長時間のタスクにより自然に知的集中が変化したときの生理指標・行動指標を計測し、その特徴量を抽出したうえで、実験参加者ごとに分類学習器に学習させた。分類学習器としては、2次判別、線形SVM、バギング決定木、重み付きKNN(K近傍法)、粗いガウスSVM、ロジスティックを用い、交差検定法によりその分類精度を比較した。その結果、バギング決定木と線形SVMによる分類精度が高いことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) BAF要素が知的集中に与える影響の実験検討 これについては考慮すべきBAF要素や環境要因が多岐にわたるために、すべての要素や要因について知的集中に与える影響を調べることは現実的でないことがわかった。その一方で、本研究成果を四季のある我が国のオフィスに応用することを考えると、調査しておくべき影響要因としての季節要因を変化させたときのBAFと知的集中との関係を実験的に調べたことは重要な進展である。 (2) 知的集中の程度を示す生理指標・行動指標の検討 昨年度の研究で問題となった知的集中と生理指標との関係の個人差については、機械学習方法を利用することにより解決できることがわかった。また、6種の分類学習方法を比較することで、分類精度の高い学習方法も見出した。さらに、心拍や瞳孔径だけでなく、頭部運動を特徴量として知的集中を推定する実験も実施した。その結果、生理指標・行動指標と知的集中との関係はある程度明確になったのは大きな進展である。しかし、分類精度の高い学習器を用いてもその精度は80%以下であり十分とは言えない。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究の成果を踏まえ、今年度は下記の研究を推進する。 (1)執務環境と休憩環境の統合気流制御法の開発と評価 昨年度までは執務中の気流制御に着目してきたが、休憩中に効率よく疲労が回復するような統合気流環境を提案し、その効果を被験者実験により調べる。また、執務環境以外の執務条件と知的集中の関係についても検討する。 (2)知的集中の程度を示す生理指標・行動指標の検討 昨年度の実験で検討した各種の生理指標の他に、行動指標として頭部運動・表情変化と知的集中の関係を調べる。また、近年、40Hz前後の音を聞いているときに発生する脳波である聴性定常反応(Auditory Steady State Response; ASSR)と認知負荷との間に関連があると言われており、このASSRと知的集中との関連についても調べる。
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