本研究課題では、これまでの室内環境制御で積極的に利用されてこなかった一時的な強い気流(Bursty Air Flow; BAF)に着目し、長時間の知的作業時に低下しがちな知的集中に与える影響について、(1)知的作業への集中に影響を与えるBAF の要素の調査、(2)知的作業への集中が低下したときに効果的に回復させるBAF の検討、の2つを課題とした。 (1)に関しては、8名の実験参加者に認知タスクを与えている間に様々な種類の気流を暴露し、覚醒効果と快適性について主観評価を行った。その結果、前方または側方からの送風、頭部への送風が低下した知的作業への集中を回復させる効果が期待できることがわかった。 一方、(2)に関しては、長時間の知的作業時の覚醒水準が低下したときに、適切な気流を用いて刺激を与えることで覚醒水準と知的作業の効率が回復する効果を検証する実験を実施した。実験では、覚醒水準を眼瞼の開度から得られる指標であるPERCLOSを用いて定量化し、さらに作業効率を認知タスクの解答時間から定量化した。また、実験参加者の状態を詳細に把握するために、脳波、心電図、皮膚電位反応を同時に計測するとともに、計測終了後に覚醒、モチベーション、集中、快適性等について主観評価を実施した。実験の結果、覚醒水準低下時に与える頭部への一時的な強い気流は、覚醒水準や作業効率を回復させることが分かった。ただし、回復効果は一時的であり、長時間の効果は期待できないこともわかった。 さらに、本研究課題に関連して、(i)断続的なレモン精油の香り刺激が知的作業への集中に与える影響に関する実験研究、(ii)ACT-Rと呼ばれる認知アーキテクチャを用いた知的集中のメカニズム解明、(iii)気流と室温を組み合わせた夏期・冬期における知的集中を向上させる温熱制御法、などについて、研究を実施した。
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