研究課題/領域番号 |
17H01778
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中村 裕一 京都大学, 学術情報メディアセンター, 教授 (40227947)
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研究分担者 |
秋田 純一 金沢大学, 電子情報学系, 教授 (10303265)
戸田 真志 熊本大学, 総合情報統括センター, 教授 (40336417)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 動作支援 / 動作予測 / ヒューマンインタフェース / 体性感覚呈示 / 筋電位計測 |
研究実績の概要 |
本研究では,体性感覚呈示デバイスを利用することによって,被支援者の意図に応じた動作支援を行う枠組みを提案し,高齢者・障がい者の動作補助やリハビリテーション補助,健常者の動作訓練の一手法とすることを目的としている.29年度は以下のように進め,良い結果を得ている. (1) 体性感覚呈示デバイスとして,皮膚の引っ張りを用いた(skin-stretcher)デバイスを設計し,頸部に装着することによって,情報呈示を行う仕組みを提案した.それを用いて,所定の時刻に所定の頭部回転を誘起するデバイスとしての性能解析を行い,単一の頭部回転を促すデバイスとしては良好な結果を得た.また,被観測者(患者・被訓練者など)の頭部動作を筋電位によって計測し,観測者(介護者・教育者など)に伝えるシステムに組み込むことを提案した. (2) 動作・行動支援のための動作計測と意図推定手法のために,姿勢・筋張力・筋電位の計測データを収集するためのシステムを設計・実装した.具体的には,慣性航法(IMU)を用いて全身の各部位を計測する手法と深度情報の得られる画像計測を併用し,隠れが生じる場合でも正確に身体の姿勢を計測しながら,筋電位などの生体計測データ同期して収録できるものである.現在,ウェアラブルデバイスとしての動作検証を進めている. (3) 注意の分配による動作の変容について新しい分析手法を提案した.注意の対象の位置,数,その重要性によって,体の使い方(体の各部位の関係)が変わることをモデル化し,逆に,体の使い方によって注意の対象の数や位置を推測することを目的とする.まだ,単純な条件での分析のみであるが,いくつかの重要な知見を得ている.このような研究を進めることによって,被支援者の注意状態に応じた動作支援を提供することを目指している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で目指す動作支援は,従来のパワーアシストのように強い力学的補助を与えるものではなく,また,情報呈示のみでもなく,その中間的な性質を持つ.その設計には大きな自由度があるため,種々の形態のものを試作しながらその有効性を評価していく必要がある.その一つとして,上記(1)のskin-stretcherデバイスを試作し,単独のデバイスとしての性能評価,及び筋電位計測と組み合わせた動作伝達デバイスとしての性能評価を行っている.当初の予定通り順調に進んでいるが,今後,種々のユーザ,環境,動作を想定した検証と簡便性を考慮した再設計等を行っていく必要がある.他の形態のデバイスについても同様の取り組みを行う予定である. 適切な動作支援のためには,デバイスの実現に加え,運動生理学を踏まえた身体動作のモデル化,動作の意図推定,動作予測が必要となる.このモデル化のために,上記(2)によって統合的なデータ取得システムを設計・実装しており,この点においても.研究計画を順調に進めることができている.今後このシステムによって,様々なユーザ,状況,動作のデータを取得する予定である.動作のモデル化については,これまで,単一関節に働く複数の筋(主動筋・協働筋・拮抗筋)の協調関係に関し,ウェーブレットコヒーレンス解析等を用いた詳細な分析を行ってきており,相補的関係や拮抗関係などが特定のスケール(周波数)の相関から検出できる可能性を見出してきた.今後は異なる関節に働く筋の協調関係にも広げて分析を行っていく予定である.さらに.上記(3)のように,注意などの心理的要因による動作の変容についての分析を行っており,これは適切な支援方法とそのタイミングを選択する良い情報となることが期待できる.また,注意の分配がわかれば,より正確な動作の予測が可能になることも期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
(1) 種々の体性感覚呈示デバイスの基礎的性能,適した問題や状況について検証する.装着部位,誘導したり抑制する動作の種類,装着するデバイスの数などにより,適した形態が変わってくることが想定されるため,複数の形態のデバイスを並行して設計・実装し,その基礎的な特性を確認する.最も基本的な特性には,刺激の識別・弁別の解像度(空間・時間・強度など),装着者の反応時間などがあるが,それらに加え,直観的に伝わる情報として,方向,動きの促進,抑制,空間的・時間的基準(タイミングや基準位置など),誘導・抑制の強さ等を確認するとともに,よりメタな情報,すなわち,同意・否定,協働感,安心感・見守られている感覚等の伝わりやすさを確認する. (2) 運動モデルを詳細化しながら,動作の類型化,構造モデルへの当てはめを行う.それにより,0~数秒程度先の動作を定量的に予測するために種々の手法を試みる.ただし,本研究期間では必ずしも完全な予測を目的とはせず,支援に必要な定性的な意図,例えば,立ち上がろうとしている等の意図の推定と動作の予測される時刻(例えば,0.5秒以内に起きる等)を合わせた,準定量的な予測を目指し,それが動作支援に必要なレベルに達していることを確認する.また,姿勢計測,筋電位計測,体性感覚呈示の機能を一体化したデバイスを検討し,実装が可能であればその性能を確認する. (3) 応用的課題における動作支援について検討する.支援者への体性感覚呈示も含め,対称/非対称の様々な形態を試み,その有効性を確かめる.また,被支援者が支援者やシステムと協調して行動することが期待できる場合には,被支援者が自分の意図を知らせるプロトコルを設定することなど,様々な活用形態が考えられる.
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