研究課題/領域番号 |
17H01787
|
研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
岩崎 敦 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (30380679)
|
研究分担者 |
前原 貴憲 国立研究開発法人理化学研究所, 革新知能統合研究センター, ユニットリーダー (20751407)
小宮山 純平 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (20780042)
安田 洋祐 大阪大学, 経済学研究科, 准教授 (70463966)
尾山 大輔 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 准教授 (00436742)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | メカニズム設計 / ゲーム理論 / 最適化 / 計量経済学 |
研究実績の概要 |
本研究は,警備計画策定やキーワード広告オークションなどのゲーム理論的資源配分メカニズム(以下,メカニズム)を,最適化や学習といったアルゴリズム技法を駆使して,計量経済学の枠組みから定量的に分析する理論的基盤を構築することを目的とする.これまでのメカニズム研究は,精緻な理論モデルによる定性的な分析から,現実の制度/慣習における課題を解決してきた.しかし,研究者が企業や政府の担当者を説得して新しいメカニズムを実践するには,その効果を定量的に分析することがしばしば必要になる.そこで,本研究はデータにもとづいて新しいメカニズムを事前に評価するための技術と方法論を構築する.具体的には,以下の3 項目を相互にフィードバックさせながら研究を推進した: 1) 不確実な環境下における動学ゲームの均衡計算アルゴリズム; 2) 警備計画策定問題の定量的分析; 3) キーワード広告オークションの定量的分析.
項目1 では,不完全観測下の多市場接触の均衡解析を進めた.これはプレイヤが複数のゲーム(市場)を同時にプレイする「多市場接触」下において,どのような振る舞いが均衡として実現するかを明らかにした.一方で,実証分析の専門家であるイェール大学のMitsuru Igami 氏を招き,動学ゲームの実証に用いるアルゴリズムと将棋や囲碁といったゲームを解くためのAIアルゴリズムの共通点についてのセミナーを開催した.項目2 および3 ではそれぞれ,テロ計画 監視における警備リソースや広告オークションにおける予算の配分を分析した.
さらに本研究分野に関する活動として,インセンティブサイエンスの算法セミナーを19回開催した.毎回10数名の参加者を集め,小規模ながらも関連研究に関する知見を深め,研究者間のネットワークを広げている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べた不完全観測下の多市場接触では,それぞれのプレイヤが相手の行動に関する情報(シグナル)を私的に観測するため,どんな振る舞いが均衡として実現するかはほとんど知られていない.しかし,これを明らかにすることが,不確実な環境における動学ゲームの均衡計算にとって重要である.これに対して,すでにいくつかの非自明な戦略とその均衡条件を明らかにしていたが,さらに今年度は戦略の構造と実現する均衡利得の関係を明確にできた.来年度はこの成果を経済学分野のトップジャーナルに投稿を目指す.また,Mitsuru Igami 氏を中心としたセミナーによって,実証分析に必要な技術を研究チームで共有できた.今後,警備計画策定やキーワード広告オークションといった事例に展開していく予定である.しかし,現実的な規模のゲームの均衡を計算するには,不動点アルゴリズムの計算量が問題になる.これに対応するために,近似アルゴリズムの技術を調査した.そこから派生した結果として,予算制約付き近似安定マッチングがある.これは安定結婚問題の拡張であり,従来は個々人がマッチできる数にしか制約がなかった問題に,何らかの社会的/技術的な要請からくる制約を外生的に与えたものである.このとき,通常の意味での安定マッチングの存在を保証できなくなるため,何らかの意味で準安定なマッチングが必要となる.これに近似アルゴリズムを利用した研究がIJCAI (採択率25%=137/550)および AAAI(採択率25%=933/over 3800)に採択された.
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の研究の結果,1) 多市場接触モデルにおける均衡(戦略)の構造,2) 動学ゲームの実証分析技術と将棋・囲碁AI技術との関連,3) 安定マッチングを求める近似アルゴリズムの開発,を進めた.3) は本研究課題では,平成30年度の「近似アルゴリズムの設計・評価」で進める予定であったが,均衡計算アルゴリズムに先立ち,市場制度設計での成果につなげることに成功した.今後の方策としては,従来掲げていた警備計画策定やキーワード広告オークションに加えて,マッチング問題の実証データも入手し,解析をはじめることで,既存のマッチング制度と本課題で提案した制度との反実仮想分析のための基盤としたい.
加えて,本年度は国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)を用いて,スタンフォード大学へ在外研究に出る予定である.同大には,経済理論のスター研究者のみならず,実証を専門とする研究者も多く,研究用のデータベースなどが充実している.また情報系研究者との交流もあり,本研究のような文理融合研究を進めるには最適な環境である.実際,日本では入手が困難な質のデータにアクセスできる上,情報系の研究者である申請者が一定期間に集中して経済学におけるデータ分析を学ぶことで,本研究課題を強力に推進する予定である.
|