研究課題/領域番号 |
17H01796
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
山村 雅幸 東京工業大学, 情報理工学院, 教授 (00220442)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ウェットGA / 高度並列進化計算 / タンパク工学 / 人工遺伝子回路 / 合成生物学 / 微生物ネットワーク / メタゲノム解析 / 数理生態学 |
研究実績の概要 |
生命にアイデアを得た進化計算の応用を通じて培われた探索戦略を、分子上に実装したウェットGA を提案し、タンパク質工学に応用してきた。タンパク質tyrRS の基質改変をテストベッドとして、12 世代の理想的な集団分布の推移を実現した。改変されたタンパク質の活性は実用に耐えるレベルに達している。さらに、生物学実装を理想化して高度並列進化計算を提案し、その基本的性質を解析した。本研究はこれらの成果を踏まえ、スパイラルの次の段階として計算モデルの応用を考え、合成生物学における人工遺伝子回路、および多種の微生物からなる生態系ネットワークの設計を試みた。 まず、人工遺伝子回路は対象として発振回路を選び、回路のカスケード接続における後段遺伝子回路の前段に与える影響を解析した。上流遺伝子として振動子を用い、下流遺伝子としてGFPの有無による挙動の違いを比較することにより下流レポーター遺伝子が与える影響を評価した。その結果、細胞内の様々な分子競合が上流遺伝子の挙動に影響を与えていることを示した。その主原因にはDNA結合サイトの奪い合いとタンパク質分解酵素の奪い合いの2種類あることを示した。人工遺伝子回路の接続には電気回路の接続における入出力インピーダンスと同様の配慮が必要である。 次に、微生物ネットワークは対象として温泉微生物マットを選び、フィールドにおいて環境条件を変えて成長させたマットのメタゲノム解析を実施した。環境要因として光刺激を考え、温泉マットへの外界からの光を遮断する装置を中房温泉に設置した。メタゲノムの属分布の変化を測定した結果、それぞれの光波長によって3種の光合成細菌の増加が確認され、微生物ネットワークの制御が可能であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人工遺伝子回路の設計では、発振回路の下流にレポーターを加えたカスケード接続に関する分析結果をlife誌に公表した。 微生物ネットワークの解析では、当初の予想に反し、微生物ネットワークにおいても外部からの制御が可能であることが明らかとなった。研究遂行上、この現象の本質を見極めることが不可欠であることから、微生物ネットワークの解析を3ヶ月延長し、新たに微生物ネットワークの実験をフィールド実験により検証したうえで、人工遺伝子回路の実験を実施し、これらを総合して微生物ネットワークの制御の検討を追加した。温泉微生物マットへの光遮断実験によって光合成細菌の組成をコントロールした結果をPLoS One誌に公表した。
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今後の研究の推進方策 |
理論的側面では、発振回路をベンチマークとして、遺伝子数を5、7、10と次第に増やして回路設計を試みる。規模拡大のどこかで、導入予定の計算サーバーでは計算量的に手に負えなくなる事態が予想される。TSUBAME 2.5 での計算により、並列度、計算量と得られる解の質の関係を調査する。 実験的側面では、現実の相互作用ネットワークの設計を試みる。具体的には、概日周期的な振動現象を要求仕様とする。太陽光に相当する、周期的だが天候によってランダムに間歇しうる光刺激を与えて、よりロバストなネットワーク設計ができるかどうかまでを課題とする。
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