研究課題/領域番号 |
17H01806
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
小島 治幸 金沢大学, 人間科学系, 教授 (40334742)
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研究分担者 |
川端 康弘 北海道大学, 文学研究院, 教授 (30260392)
吉澤 達也 神奈川大学, 人間科学部, 教授 (90267724)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 側性化 / 大脳機能 / 視覚情報処理 / Magno(大細胞)系 / Parvo(小細胞)系 |
研究実績の概要 |
令和元年度は, 昨年度に引き続いてParvo系視覚処理機能を評価するために色度コントラストを用いて刺激検出閾の測定を行なった。Parvo 経路は色情報の伝達経路として知られている。しかしそこに輝度情報が含まれると,その情報はMagno系も作動させることになるため,Parvo系のみを駆動させるためには輝度情報を含まない色度の違いのみによる刺激を作成する必要があった。このため昨年度はまず,色度コントラストによる格子縞の作成のためにminimum-flicker技法(MF法)による等輝度刺激条件の測定を試みたが,測定が大変困難で研究が進まなかった。このため本年度はminimum-motion技法(MM法)を用いて等輝度条件の測定を試みた。そして,MM法であれば比較的安定した計測値が得られることがわかった。このためこれ以降,MM法によって等輝度値を求めることにした。 次に,参加者ごとに等輝度の刺激条件を計測し(実験1),その各刺激条件を用いて,各自の対象検出閾(実験2),運動検出閾(実験3),運動弁別閾(実験4)を計測し,それらの左右視野差を検討した。実験によって14名から16名の観察者が研究に参加した。その結果,実験1の等輝度測定値には左右視野差は見られなかった。また実験2における対象検出閾の測定では15名中11名が左視野での検出閾の方が右視野より高い傾向を示しているかにみえたが,統計的には有意ではなかった。しかし,実験3における運動検出閾の測定では,左視野での感度の方が右視野よりも高い結果が統計的にも得られた。さらに実験4における運動弁別計測の結果は,空間周波数2条件のうち1条件において,やはり左視野感度の方が有意に高かった。これらの計測データは,視覚処理系ではその初期視覚野の段階から半球機能差が生じている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度の研究は,前年度の研究の遅れから,大きな挽回を目指した。 一般的な視覚情報(刺激)は輝度と色度の情報を含んでおり,特に輝度情報はMagno系とParvo系の両経路を通じて伝達されると考えられている。このため,輝度情報のみによる視覚処理特性の吟味では両経路のどちらが関わっているかがわからない。それに対して色度情報はParvo系によってもっぱら処理されると考えられていることから,視覚神経系2経路の情報処理特性を明らかにするためにはParvo系の処理特性の精査が必要である。 昨年度は,視覚刺激の処理にはその初期段階から何らかの左右視野差が存在すると仮定して,当初,色度刺激作成条件の簡易な計測法であるminimum-flicker技法(MF法)を用いて左右半球機能差/左右視野差の検討を開始したがその違いのエビデンスを十分に示すことができなかった。しかし,昨年度の末ごろより開始したminimum-motion技法(MM法)による等輝度計測を行ってみたところ,計測結果が安定し,刺激処理に関わる左右視野での違いを検討できるようになった。この結果,令和元年度は測定が捗り,4つの実験を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究結果から,Parvo系刺激の処理は初期視覚皮質の段階からすでに左右視野差が存在すると考えて良いと思われる(この一連の結果は現在投稿を目指して執筆中である)。一方,Magno系処理固有の処理特性を分離して測定することは現在の技術では容易でないが,可能性の一つはモノクロ低空間・高時間周波数刺激を用いることである。今後は空間周波数フィルターを用いて対象刺激の刺激成分を変調することによってParvo/Magno系(腹側系/背側系)をそれぞれ刺激する画像を作成し,それら刺激の処理課題実施中の脳活動計測を行って,左右大脳半球処理差を比較検討したい。 また,Parvo/Magno両系由来の刺激成分に拘らなければ腹側系/背側系情報の処理過程を明らかにするために,局所刺激と大域刺激を利用した処理の側性化の有無を検討することも考えられる。この一つの試みとして,先行研究で用いられているような顔画像刺激や身体画像刺激を用いて事象関連電位の計測を行い,処理の半球機能差を検討することも現在すでに開始している。このような高次視覚処理の機能側性化との関係を通して,本研究の課題の検証を進めたい。
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