研究課題/領域番号 |
17H01811
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
嶋脇 聡 宇都宮大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10344904)
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研究分担者 |
吉田 勝俊 宇都宮大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20282379)
中林 正隆 宇都宮大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50638799)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | コンピュータシミュレーション / バイオメカニクス / 橈骨遠位端骨折 / 変形癒合 / 複合変形 / 回旋制限 / CT撮影 |
研究実績の概要 |
本研究は,橈骨遠位端骨折後に生じる変形治癒の三次元変形量によって,前腕回内・回外の可動域および回転軸がどのように変化するかを,数値シミュレーションの手法を用いて包括的に明らかにするものである.従来の二次元変化量(単独変形)のみの評価では,可動域の過小評価となる恐れがあった.本研究結果より,臨床現場では,橈骨遠位端変形治癒の患者に対して,診察後すぐに的確な,前腕回旋制限と観血的治療の有無を評価することができる.橈骨の三次元変形治癒のパラメータとして,橈側傾斜,掌側傾斜,橈骨短縮,回旋変形の4つを選定する.平成29年度の目標は正常な前腕回旋運動が可能でかつ精密・正確な上肢モデルを構築することであった。そのために、2つの段階が必要となった。 1.前腕回旋運動が可能な上肢モデルの構築 被験者1名に対して、肘関節伸展状態でCT撮影を行い、そのCT画像から骨モデルを構築した。次いで、4種の筋モデルを骨モデルに付与して、前腕回旋を可能にした。この際の筋収縮モデルはHill-typeモデルとした。次いで、前腕運動を制限する靭帯モデルを付与した。靭帯モデルは29本であった。さらに、尺骨と手根骨の間に存在する三角線維軟骨複合体をバネモデルでモデル化した。 2.ヒト回旋データによる検証 モデルを作成した被験者に対して、中間位から最大可動域まで30°毎にCT撮影を行い、検証用の骨モデルを構築した。シミュレーションモデルと検証用骨モデルの両方に同一な4点の特徴点を選定して、それの座標誤差を評価した。評価した結果、最大誤差は回内で4.2mmであり、回外で4.1mmであった。これより、目標値である5mm以下の誤差を実現できた。 平成29年度の目標は達成できたので、さらに研究を進めて、単独変形モデルおよび複合変形モデルの解析も実施している。平成29年度には、掌側傾斜と橈骨短縮に着目した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
H29年度の目標は高精度なモデル作成であった。ヒトCT画像から骨モデルを構築し、それに筋モデル、靭帯モデル、関節円板モデルを追加して、腕モデルを作成した。筋モデルにはHillタイプの筋収縮を与えた。このモデルで、正常な前腕回内・回外運動を実現できた。また、精度検証では、CT撮影で得られたヒトデータを比較して、5mm以下の誤差であることを示した。 モデル作成が予定より早く終わったため、橈骨変形癒合モデルによる回旋制限をシミュレーションした。まずは、掌側傾斜と橈骨短縮に着目した。掌側傾斜の単独変形の場合、傾斜角度15度までは回旋制限が生じなかったが、20度で約44%の回旋可動域の減少を生じた。橈骨短縮の単独変形の場合、短縮5mmまでは回旋制限が生じなかったが、短縮6mmで約81%の回旋可動域の減少を生じた。 掌側傾斜と橈骨短縮の複合変形の場合、短縮2mmでは、掌側傾斜15度までは回旋制限が生じなかった。しかし、短縮3mmでは、掌側傾斜15度で約15%の回旋制限が生じた。さらに、短縮4mmでは、掌側傾斜5度で約45%の回旋制限が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
1.正常回旋運動モデルの改良 十分な精度でモデル化できたが、さらに次の改良を行う。まずは筋モデルの変更を行う。Hillタイプの筋モデルであるが、腱要素およびダンパー要素を加えない収縮要素・弾性要素並列モデルとした。そこで、より現実に近づけるためにこれらの要素も追加したモデルに改良する。靭帯モデルにおいても、バネモデルのみでモデル化したが、これにダンパー要素も追加する。必要に応じて、骨モデルの改良も行う。 2.掌側傾斜および橈骨短縮の単独変形モデルと複合変形モデル 昨年度も実施したが、さらに詳細に計算を行い、前腕回旋運動に影響の無い変形治癒,日常生活に影響の少ない変形治癒の領域を確定させる。 3.橈側傾斜および橈骨短縮の単独変形モデルと複合変形モデル 新たに、橈側傾斜の単独変形モデルと、橈側傾斜および橈骨短縮の複合変形モデルについてシミュレーションを行い、前腕回旋運動に影響の無い変形治癒,日常生活に影響の少ない変形治癒の領域を求める. 4.筋出力の影響 昨年度は筋出力を最大筋出力の70%、拮抗筋20%のみに設定した。本年度は筋出力を変化することによって、回旋制限の領域が変化するのかも検討する。 5.成果報告 いくつかの検証が終わり、積極的に成果を報告していく。現在予定しているものは、7月に国際会議へ報告する。また、論文化も早急に行う。
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