研究課題/領域番号 |
17H01814
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
秋山 泰 東京工業大学, 情報理工学院, 教授 (30243091)
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研究分担者 |
大上 雅史 東京工業大学, 情報理工学院, 助教 (50743209)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 生体生命情報学 |
研究実績の概要 |
本研究では、環状ペプチドを用いた中分子創薬の支援を目的とし、環状ペプチド創薬の開発で現在懸案となっている、ヒト細胞膜の透過性の予測および血漿タンパク質結合率の予測を可能とする手法の開発を実施する。 本年度の実施計画に基づき、ヒト細胞膜の透過性予測においては、分子動力学シミュレーション環境の確立と実験値等の収集を実施した。拡張アンサンブル法の一種であるSteered MD, Supervised MD, Metadynamicsの3手法をそれぞれ実装し、さらに入力となる分子配座の自動生成システムも構築した。また、特殊ペプチドに含まれる人工残基を扱えるようにするために、分子形状と電荷分布の重ね合わせに基づく分子距離行列を作成した。 一方、血漿タンパク質結合率の予測においては、2次元および3次元特徴記述子を用いた機械学習による回帰予測を実施した。実験値を良く再現する少数の記述子の組合せを得るために、スパースモデリングの一種であるLasso法を複数回適用する手法を開発した。サンプル数が1,000件を超える低分子データ (Ingle, et al. J Chem Inf Model 2016) においては5種類の記述子で相関係数0.72となる予測を達成できたが、構築された予測器を環状ペプチド分子(32サンプル)に適用した結果は相関係数0.49に留まり、環状ペプチド分子におけるデータの拡充や、転移学習的枠組みが引き続き必要であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の実施計画に基づき、ヒト細胞膜の透過性予測においては、分子動力学シミュレーション環境の確立と実験値等の収集を実施した。拡張アンサンブル法の一種であるSteered MD, Supervised MD, Metadynamicsの3手法をそれぞれ実装し、東工大TSUBAME 3.0スパコン上で実行できる環境を整えた。さらに入力となる分子配座の自動生成システムもOpenBabelライブラリを用いて構築した。また、特殊ペプチドに含まれる人工残基を扱うために、分子形状と電荷分布の重ね合わせに基づくMD-MVO法によって分子距離行列を作成した。D体アミノ酸分子も含め、100×100の分子距離行列を構築し、標準アミノ酸については既存の置換行列との比較解析も実施した。 血漿タンパク質結合率の予測においては、2次元および3次元特徴記述子を用いた機械学習による回帰予測を実施した。実験値を良く再現する少数の記述子の組合せを得るために、スパースモデリングの一種であるLasso法を複数回適用する手法を開発し、適用した。血漿タンパク質結合率の値をそのまま目的変数にする場合と、結合定数の対数値(ln Ka)に換算する場合とで検証した結果、サンプル数が1,000件を超える低分子データ (Ingle, et al. J Chem Inf Model 2016) においては5種類の記述子で相関係数0.72となる予測を達成したが、構築された予測器を環状ペプチド分子(32サンプル)に適用した結果は相関係数0.49に留まり、環状ペプチド分子におけるデータの拡充や、転移学習的枠組みが必要であることが明らかとなった。以上の結果はAPBC2018国際会議のポスター発表で報告を行った。
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今後の研究の推進方策 |
1)ヒト細胞膜の透過性予測 数百件の環状ペプチドで性能評価を行えるよう、シミュレーション単体の並列化やGPU利用を含め、多数のシミュレーションの同時並列実行が自動的に行えるようにする。独自の負荷分散ライブラリmpidpをベースに、TSUBAME 3.0の50ノード同時実行を目指す。一方で、実用では計算負荷の軽い手法が望まれるため、血漿タンパク質結合率予測のテーマで取得した記述子や、昨年度に開発した拡張アミノ酸類似度行列などを用いて、機械学習アプローチで大まかな膜透過性の推算ができないかを検討する。 2)血中タンパク質結合率予測 必要な記述子の選抜と計算方法の整備を引き続き実施する。平成30年度はこれに加え、分子動力学シミュレーションで得られる動的特性(配座の分布等)を記述子候補として検討する。また、タンパク質ドッキングにおける独自のスコア関数を本研究に適合するよう拡張し、血中の主要なタンパク質であるアルブミン等と環状ペプチドのドッキングスコアを予測に用いることも検討する。
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