研究実績の概要 |
本研究では、次世代の創薬分子として注目されている「環状ペプチド」を用いた中分子創薬を加速するため、その技術的なボトルネックとなっていた、ヒト細胞膜の透過性、および血漿タンパク質結合率の計算機予測を行うための基盤的手法を開発した。 環状ペプチドの細胞膜の透過性予測においては、2次元および3次元記述子を用いた機械学習による予測と、大規模な分子動力学シミュレーションを通じた予測の二つの手法を開発した。機械学習による手法では、3次元記述子を得るための方法や、ペプチドの環状性を表現するための方法に関してさまざまな工夫を行い、実験値と予測値の相関係数が R=0.85程度の予測が行えた。シミュレーションに基づく方法では、Steered MD, Metadynamics, Supervised MDの3手法をそれぞれ比較検討し、総計200件以上の環状ペプチドに適用した結果、実験値と予測値の相関係数がR=0.7程度となる予測法が構築できた。残基数は6~8程度であり、より大型のペプチドを対象とするには系のサイズと実行時間を拡大する必要がある。両者のアプローチを比較してみると、十分にデータが収集できる範囲では前者の精度が高い。後者は計算時間が莫大であるが、汎用性があり、特殊な修飾残基を用いる場合などにも利用できる可能性が高い。これら二つのアプローチを相互補完的に利用することが望ましいと結論づけた。 一方、血漿タンパク質結合率(PPB)予測では、2次元および3次元特徴記述子を用いた機械学習による回帰予測が良い予測精度を示した。当初はスパースモデリングの一種であるLasso法を複数回適用する手法を発表した (Tajimi, et al. BMC Bioinform, 2018.) 。その後、畳み込みニューラルネットワークに基づく深層学習手法を用いた場合が、より高い予測精度(R=0.90)を示した。
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