研究課題/領域番号 |
17H01816
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
堀川 洋 香川大学, 工学部, 教授 (60181533)
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研究分担者 |
丹治 裕一 香川大学, 工学部, 教授 (10306988)
北島 博之 香川大学, 工学部, 教授 (90314905)
藤本 憲市 香川大学, 大学連携e-Learning教育支援センター四国, 助教 (20300626)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 機械学習 / 超高速情報処理 / 画像、文書、音声等認識 / 数理工学 |
研究実績の概要 |
CT装置における再構成画像xと投影データyにはy=Axのような線形関係が成立する。上記の線形関係を満たす解は,x=(A^TA)^{-1}A^Tyのような最小2乗の意味において与えられる。従来法である連続法では,最小2乗解を正に拘束して得るために,非線形微分方程式で定義された非線形ダイナミクスを,オイラー法を用いて解析し,定常応答を求めていた。そこで,この演算効率の改良のために,ADI法の適用を行い,その演算効率を比較・評価を行った。さらに,回路解析において有効性が知られている非線形緩和法を用いて定常解を直接求める方法についても評価を行った。さらに,連続法の非線形ダイナミクスを高速に計算するためのディジタル回路の設計を行った。定義されている非線形微分方程式に対して,数値積分法として前進オイラー法を適用し,OpenCLを用いてハードウェア記述を行った。これをFPGA上へ実装しその動作確認を行った。また,GPUを用いたダイナミクスの高速計算についても検討を行った。 上記の最小2乗解を求める手法では,良好な初期値が得られれば,より高速に解を求められる可能性がある。そこで,最小2乗解を,階層型ニューラルネットワークを用いて学習する方法について検討を行った。ネットワークの入力に投影データyを与え,再構成画像の画素値xを出力するように,学習アルゴリズムの適用を行った。階層型ニューラルネットワークのプラットホームであるTensorflowを用いてその構成を行い,学習効果について調査を行った。さらに,知的信号処理の分野で学習アルゴリズムの一つとして知られている非負行列因子分解を用いて,最小2乗解を高速に求める方法についても検討を行った。さらに,本手法が連立方程式の静的反復解法として知られている緩和法に類似していることから,これを発展させ,動的反復法である共役勾配法を改良して,新たな非負行列因子分解法の提案を行い,CT画像の再構成を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度の実施項目として,(1)ディープラーニングによる学習アルゴリズムの検討,(2)学習用データの作成,実装用ソフトウェアの調査,(3)GPUを用いたダイナミクスの計算方法の検討,(4)回路解析手法を用いた再構成アルゴリズムの検討,を挙げていた。(1),(2)については,Google社が提供しているTensorflowを用いて,最小2乗解を学習する階層型ニューラルネットワークの構成を行った。解析規模が数十程度の非常に小規模なものであれば,最小2乗解の学習は可能であったが,これよりも大きくなると学習が行えなかった。また,線形関係y=Axの係数行列Aがランク落ちする場合には,様々な学習アルゴリズムの適用を行ったが良好な学習は得られなかった。一方,知的信号処理の学習アルゴリズムとして知られている非負値行列因子分解を用いた再構成では,連続法における非線形ダイナミクスを前進オイラー法,あるいは,その改良版であるADI法を用いて解析を行うよりも,高速に良好な再構成画像を得られることが分かった。この非負値行列因子分解はHALS法と呼ばれ,解を効率良く求められることがその特徴である。HALS法の計算過程は,連立方程式の静的反復法として知られているガウス・ザイデル法に類似し,各反復の解が負であれば,それを零と置く。ここで,この概念を静的緩和法よりも高速であることが知られている動的緩和法の一つである共役勾配法に適用し,部分的な反復解が非負となるように拘束を与えた。これにより,HALS法よりも10倍程度の高速化が行えることが分かった。 (2)の学習用データについては,米国National Library of Medicineにおいて入手を行った。(3)のGPUを用いたダイナミクスの計算については,GPUでの実装方法について調査を行った。(4)の回路解析手法である非線形緩和法については,解への収束が不安定であるという結果が得られ,更なる検討は必要ないと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画では,30年度以降の実施項目に,(1)ディープラーニングによる学習アルゴリズムの実装,(2)回路解析,画像処理との連携,(3)FPGAを用いたダイナミクスの計算方法の検討,(4)数値解析手法を用いた学習アルゴリズムの検討と実装を挙げていた。一方,29年度の検討から,階層型ニューラルネットワークを用いた最小2乗解の学習は困難であることが判明したため,(1),(4)については検討内容を変更する。29年度の検討により,非負値行列因子分解の有効性が確認できたため,この改良について検討を行う。現在のところ,連立方程式の動的反復解法である共役勾配法による改良を行っている。一方,連立方程式の動的反復法として,クライロフ部分空間に基づく様々な手法が提案されており,これらの内,どの方法が最も非負値行列井因子分解に適しているかを検討する必要がある。また,収束性など理論的な側面の検討が必要であり,これらを実施,その評価を行う。また,実際問題に適用するためには,GPUを用いた効率的な実装についても検討を進める必要がある。そこで,ディープラーニングを用いた学習アルゴリズムの実装で使用する予定であった複数のGPUを搭載したワークステーションを活用し,非負値行列因子分解の効率的な実装について検討を行う。 (2)はマルチグリッド法の概念に基づく。小さなサイズの再構成画像を求め,これを拡大予測することで大きなサイズの画像を求める方法であり,本手法についても検討を行う。(3)については,29年度でディジタル回路の基本設計を行っており,行列―ベクトル積における乗算の並列度を向上させることで,ダイナミクスの計算を効率化する。また,GPUを用いた連続法における非線形ダイナミクスの高速計算についても検討を行う。特に,疎行列演算ライブラリーの導入により画像再構成の効率化について検討を行う。
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