研究実績の概要 |
器官形態形成に重要となる分子情報の蓄積とは対照的に、組織変形、細胞の集団運動、およびそれらの力学との関与など、形態が構築される「物理プロセス」については殆どの臓器に渡って未解明のままである。本研究では、具体的な生物対象として心臓形成過程を例に、実験データに基づく数理モデル(超弾性体モデルをベースとした体積成長・大変形を伴う非線形連続体力学モデル)を構築し、実験データ解析から想定される構成則(応力と変形量の間の関数関係)を適用した際に発生過程を再現することでProof of conceptを行うという研究アプローチをとってきた。 2019年度までに、心臓初期発生過程(C-looping)に対する4D計測を行い、組織動態と細胞動態を定量化し、細胞・組織の両階層で心筒内部の左右非対称な動態を明らかにした。さらにデータ解析から想定される構成則を基に力学シミュレーションを行い、初期形態変化の再現に成功し、国際誌に論文を発表した [Kawahira et al., Cell Reports, 2020]。 2020年度は、その論文において想定された構成則に関する解析を深める方向で研究を進めた。一つはデータから計算された組織変形量とシミュレーションから計算された組織内応力の関数関係の詳細を解析すること、もう一つは実験で力学的Perturbationを与え細胞応答を調べることである。現時点でクリアな結果までは到達していないが、形態形成則の解明へ貢献すべく、2021年度以降もこれらのプロジェクトを継続する計画である。
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