研究課題/領域番号 |
17H01821
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池上 高志 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10211715)
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研究分担者 |
岡 瑞起 筑波大学, システム情報系, 准教授 (10512105)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ウェブ / 新規性 / オープンエンド / 進化 / 生態系 / STS |
研究実績の概要 |
Social Tagging Service(STS)のデータを解析し、ウェブサービスの進化を定量的に解析してきた。その結果のなかで、1)ユーザーのサイズ増加に伴う,コミュニティーの自己組織化をいろいろ検証した。2) 既存の単語の新しい組み合わせそのものが進化する(pairwise novelty)という観点を導入した。これをもちいて計算を行うと、サービスの新規性の進化を定量化することができた。この観点は、生命進化のLancetのGARDモデルのウェブバージョンといえるものである。 3) あるタグの意味の進化を扱うことに成功した。その方法は、あるタグに注目し、それが他のどういうタグと同時投稿されたかを計算することで、そのタグの「意味(semantics)」と考え、その意味の進化の解析をおこなった。その結果、意味の進化に2種類存在することが見出された。ひとつは、意味が時間とともに収斂していくタグであり、もうひとつは意味が確定せず変遷するものである。これは人工生命の分野で長年の問題のひとつである"open ended evolution"の典型的な例を生物進化以外に与えることとなり、大きな成果と考えている。
次に、keystone種という観点を持ち込んで、ウェブサービスの進化を計算した。keystoneとは、ある相対的な頻度の少ない種が、それが取り除かれたときに全体のシステムに大きな影響を及ぼす種として定義される。そのようなものをウェブのデータの中に見出すことに成功した。
これらの成果はそれぞれ、国際雑誌(artificial lifeなど)と、国際会議(webSci'19)に受理されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ここでの研究の目的は、ソーシャルメディアの数年にわたるデータをもちいて、長時間の解析を行い、ユーザーやサービスの規模が、時間ともに増大し、複雑化するウェブサービスをその長い時間スケールでの振る舞いについて解析する。これまでの時系列データの解析とことなり、ここではウェブサービス・データの非定常性に注目し、その状態空間は常に拡大・発展する「進化状態」を見出すことにある。そこで目的として、ウェブサービスの進化を逐次的な相転移現象の連なりとして捉え、ウェブサービスを生命的進化システムとして詳細に解析するとした。 現在、先の業績報告に記したように、Open ended evolutionの例をつくることに成功した点、ユーザーの規模の増大に伴う構造化を見出した点、それに進化生態系のひとつのメルクマークと思われるkeystone種をウェブにも見い出せたのは、予想以上の成果である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今回得た成果を精緻化して、理論的なモデルを改良して推し進めることと、論文化して発表していくことを主要な行動としたい。特に4つのSTSを通じて見出した「意味の進化」現象は、今後人工進化システムを論じていく上では非常に重要なものと考えられるので、積極的にその理論化とモデル化を行っていきたい。 研究計画のひとつの目的として、拡張型プライス方程式の適用をあげている。ここで用いて考えてきたモデルは、Yule Simon(YS)型のモデルで、進化の導入は簡単な確率過程として扱っている。このYSモデルを改良して、拡張型プライス方程式の観点から新しい理論モデルを提案するというのは、今年度の研究発展の目標となる。
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