研究課題/領域番号 |
17H01823
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
沼尾 雅之 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (90508821)
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研究分担者 |
高玉 圭樹 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (20345367)
森本 康彦 広島大学, 工学研究科, 教授 (00363010)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 医療・福祉サービス / センサーネット / ビッグデータ / IoT / 見守りシステム |
研究実績の概要 |
本研究では,IOT技術を応用することで,施設または個人住宅で生活する高齢者を24時間継続的に見守るための見守りシステムを開発し,そのデータを活用することによってQOLの向上や健康寿命の増進を目指す.そのために,マルチモーダルセンサを統合した見守りロボットを開発し,居住者の日常生活行動(ADL)を起床から睡眠にいたるまで継続的に,かつ負担なくモニターし,データ化するシステムを開発する.具体的には,見守りシステムの機能や条件をUMLによりモデル化し,施設などの屋内居住空間において,個人の特定と,その位日常生活行動を認識する技術と,異常状態を検知するマイニング技術を開発し,実際の居住空間で実験評価する. マイクや生体センサー等から得られるデータから,異常な状態,あるいは異常な状態に至る前段階にある状態の検知を行うことを目指しているが,異常の検出と同時に居住者のプライバシーの保護も本研究においては重要視している.プライバシーを保護した状態でのデータマイニングを可能にするため,本年度は完全準同形暗号を利用した秘密計算手法にもとづくデータマイニングとその並列計算手法について実績をあげることができた. また,睡眠に関わる状態推定の向上と異常状態検知にも着手した.具体的には,居住者の負担がない無拘束型のマットセンサから生体振動データを取得し,睡眠段階の一致率を向上させることに加え,睡眠時無呼吸症候群の異常状態を検知技術を提案した. 開発したシステムを,実際に介護施設に設置することによって実証実験を行なった結果,転倒や梗塞などの異常検出の短期的見守り機能によって,介護負担の軽減が達成された以外にも,ADLから機能的自立度(FIM)を測定することによって介護度の自動判定や,その長期的な変化を観察することで事故予防および生活不活発病などの早期発見ができることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マルチモーダルセンサによる日常生活行動ADLの認識技術を開発した.特に機械学習で必要となる大量の教師データの問題を解決し,認識対象やセンサ設置環境の変化に対する認識率の低下に対しても強いシステムを目指した.また,食事や排泄などの基本的生活行動(BADL)認識に加えて,料理や買い物などの手段的生活行動(IADL)や,会話などの社会的生活行動(SADL)も認識できるようにするために,計算機で利用可能な知識表現である生活行動オントロジーをOWL言語で構築し,5W1Hで行動を定義できるようにした.さらにセンサデータからの中間表現を生成するための機械学習と論理推論を組み合わせた認識システムを開発した. 睡眠状態の推定に関しては,今まで考慮してこなかった1日のリズムであるサーカディンリズムを取り入れるとともに,90分サイクルのウルトラディアンリズムも同時に考慮することで,睡眠段階の一致率向上に成功した.最終年度では,居住者の昼間の状態認識技術と夜間の睡眠段階推定技術を統合し,老人ホームの実環境で実証実験を通して,その有効性を示すとともに,実用化に向けた課題を解決する.さらに,異常状態検知として,本年度成果の睡眠時無呼吸症候群の判定方法を組み込むとともに,その判定率の 向上を目指す. 分担者の森本は,シャープ製の会話ロボット「ロボホン」とそれに付帯するクラウド会話処理サービスを利用し実験を進めていたが,ロボット本体のソフト・ハードの改変には制約があるため,本年度は,ロボットに依存する部分から離れ,得られたデータからのプライバシー保護データマイニングの研究を中心に進めた.ロボット自体はマイク,およびセンサーのインター フェースとして引き続き利用する.睡眠の異常状態検知に関しては,睡眠段階の1つである覚醒状態の種類に着目することで,睡眠時無呼吸症候群の判定方法を見出した.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では,居住者の昼間の状態認識技術と夜間の睡眠段階推定技術を統合し,老人ホームなどの実環境で実証実験を通して,その有効性を示すとともに,実用化に向けた課題を解決する.まず,異常状態検知として,昼間は日常生活行動(ADL)から得られる転倒などの事故や,梗塞などの健康異常の検出に加えて,夜間の睡眠時無呼吸症候群の判定方法を組み込むとともに,それらの検知率の向上を目指す.また,異常な状態に至る前兆の検知につながるデータマイニング技術の個々の要素技術を引き続き研究開発してゆく. 一方,現在までに開発した見守りシステムで使用されるプライバシーを考慮した各種のデータマイニングの要素技術を,その他の生体センサ,RFIDなどによる健康・行動認識技術に応用するための諸問題を解決することで,「見守りシステム」全体としての機能強化を目指す.このためには,特に個人データの共有化のためには生体データや行動データの非識別化非特定化技術の開発が必要となる. そして,より長期的かつ大規模な見守りデータを収集することによって,医療者,介護者,家族,本人全てが活用できる介護知識ベースを構築することを目指す.長期的な目安としては年単位,また複数の施設において様々な介護度の居住者の見守りデータを収集する.このために,インタネット上のクラウドのような共用サーバ上で見守りサービスを運用する仕組みづくりを提案する.
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