研究課題
亜熱帯海域の炭素循環研究における最大の課題は、光合成による冬から夏にかけての正味の二酸化炭素吸収 (純群集生産) を駆動する窒素の供給・同化過程が未確認で、二酸化炭素吸収の変動の仕組みが解明されていないことである。本研究は、これまで研究例の少ない尿素に着目し、高感度吸光光度分析技術を駆使して亜熱帯海域における尿素のダイナミクスを観測することにより、尿素が純群集生産を支える窒素源であるか否かを検証するものである。平成29年度は尿素の全自動高感度吸光光度分析システムの開発に取り組んだ。先行研究を参考にして、100 cmの長光路セルを組み込んだ分析システムを構築し、反応時間および温度、試薬の組成と濃度を決定した。全自動分析には必須となる界面活性剤について詳細な検討を行い、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドが最も適していることを明らかにした。3%NaCl、西部北太平洋亜熱帯域表層水、相模湾深層水を用いてブランクを選定したところ、相模湾深層水の吸光度が最も低くブランクに適していることがわかった。本システムは1時間あたり10試料測定可能であり、検量線は0-1000 nMの尿素態窒素濃度の範囲で直線性および強い相関を示し、先行研究に比べて十分に低い検出限界 (5 nM) が得られた。気象庁航海において西部北太平洋亜熱帯域の200 m以浅から採取した試料を測定したところ、25-134 nMの尿素態窒素濃度であり、鉛直的にダイナミックな変動が観測された。現場試料を用いて繰り返し測定を行い、変動係数を求めたところ5%以下であり、高感度高精度で分析可能であることが実証された。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度は尿素の全自動高感度吸光光度分析システムの開発が主目的であった。実際にシステムを構築し、界面活性剤およびブランクの詳細な検討を行い、亜熱帯海域の試料でも高感度高精度で分析できる手法を確立することができた。さらに、気象庁観測船および海洋研究開発機構学術研究船白鳳丸に乗船し、北太平洋亜熱帯域において尿素動態に関する観測および試料採取を実施した。尿素濃度に関する一部の試料については既に分析を開始しており、データが得られている。以上より、当初の計画通り、本研究は順調に進展しているといえる。
確立した尿素の全自動高感度吸光光度分析システムを用いて、平成29年度に気象庁観測船および海洋研究開発機構学術研究船白鳳丸の航海で北太平洋亜熱帯域において採取した試料を分析し、尿素濃度の時空間分布を明らかにする。平成29年度の白鳳丸航海では、尿素取り込み速度および尿素代謝遺伝子に関する試料も採取しており、それらの分析およびデータ解析を行う。平成30年度には気象庁観測船による西部北太平洋亜熱帯域、白鳳丸による東部インド洋亜熱帯域の航海が予定されており、これらの航海においても尿素動態に関する観測および試料採取を実施する。平成31年度以降も観測航海、試料採取および分析、データ解析を実施し、尿素が亜熱帯海域の純群集生産を支える窒素源であるか否かを明らかにする。
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