研究課題/領域番号 |
17H01854
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
瀬川 高弘 山梨大学, 大学院総合研究部, 特任助教 (90425835)
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研究分担者 |
森 宙史 国立遺伝学研究所, 情報研究系, 助教 (40610837)
米澤 隆弘 東京農業大学, 農学部, 准教授 (90508566)
竹内 望 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (30353452)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 環境変動 / アイスコア / 微生物 / メタゲノム / ゲノム |
研究実績の概要 |
本研究では,アイスコアに保存されている過去の微生物のメタゲノムデータを解析することで,当時の微生物群集の集団構造や機能の再構成を目指す.アイスコア中に含まれる微生物量が少ないことに加えて,試料年代が古いためにDNAは断片化している.そのため断片化した微量DNAを解読する技術の開発を進めながらゲノム配列取得をおこなった.とりわけ断片化された損傷DNAに対して,コンタミネーションを抑えながら高収率でDNAライブラリー構築を行う先端的プロトコールの確立を重点的におこなった.従来の手法と総合的な比較を行ったところ,本研究で確立した手法ではより詳細な過去のDNA情報を取得できることが明らかになった.本手法をアイスコアに適用し,実際に塩基配列の取得を進めた. また,アイスコアメタゲノムのデータの大規模並列計算をおこなうために,断片化された配列データからでも各断片の由来する系統やそれらがコードする遺伝子の機能を推定できるメタゲノム解析パイプラインの構築をおこなった.上記の手法を用いて,現在から8000年前までの15試料のアイスコアから,無菌的にDNAを抽出し次世代シークエンサーによるゲノム配列の取得をおこなった.こうして得られた大規模な配列データを用いて,サンプルごとの系統組成と機能組成などの解析を実地した.また,得られた配列がコンタミネーションではなく古代試料由来であるかを確認するための分子進化学的検定法を考案し,検証をおこなった.さらにアイスコアから検出されたシアノバクテリアの塩基配列データに基づき,遺伝的多様性と遺伝的分化度の経時的な変化の推定をおこなった. さらに,アイスコア中の過去の微生物情報に応用するために,現在の南極の微生物地理的分布を解析し,特定の藻類種が北極と南極の両極から共通で検出されること,またそれらは現在も分散,交流している可能性があることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アイスコア中に含まれる微量な断片化した損傷DNAを,コンタミネーションを抑えながら高収率で抽出する手法を確立し,古代試料由来のDNAライブラリー構築に最適化されたプロトコールを確立した.こうして確立した手法により損傷したDNAを修復させたうえでDNAを高収率で抽出し,1本鎖DNAからのゲノムライブラリーの構築をおこなった.従来の短鎖ライブラリー手法と総合的な比較分析を行った結果,本研究で確立したプロトコールを用いることでより詳細な過去のDNA情報を取得することが可能であることが明らかになった.同時に得られたDNA塩基配列が古代試料に由来するものであるのか,現生DNAからのコンタミネーションであるのかを分子進化学的枠組みで統計的に検証する手法を開発し,取得された配列の信憑性を評価することが可能となった. こうした新技術の開発により従来の問題点を解決することができ,その結果,今まで情報のなかった古い試料年代のサンプルから信頼性の高いゲノムデータを得ることができたことは研究目的に沿った成果であるといえる.大規模データのバイオインフォマティクス解析も計画通り進み,シーケンスして得られたDNAデータから微生物群集構造について明らかにすることができたことは,研究目的に適った成果であるといえる.また,これまで未知であった微生物群集組成と環境変動との関連についての情報を得ることができたことは,既存の微生物群集の進化についての視野を大幅に拡張しうる成果といえる.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる本年度は,今までの分析で明らかなった微生物群集の進化史を時系列的に総括するため,様々な年代に由来する試料数を増やし,メタゲノム分析のみならず同位体およびイオン分析を含めた網羅的な解析を実施する.昨年度開発した古代試料からのDNA抽出手法やDNAライブラリー構築手法により,クリーンルーム内にて氷試料内部のみを無菌的に採取したうえで,ゲノム抽出・増幅を実地し,ゲノム配列の取得をおこなう.アイスコア由来の微生物群集のDNAをシーケンスして得られた配列データについて,昨年度開発した断片化された配列データからでも各断片の由来した系統や遺伝子の機能を推定できるメタゲノム解析パイプラインを用いて,メタゲノムサンプルごとの系統組成と遺伝子機能組成,さらには系統ごとに所持する遺伝子機能を推定し,各サンプルの微生物群集の概要を明らかにする.また,コンタミネーションの可能性を検証するため,断片化の度合いによって推定される系統組成が異なるか否かを解析する.さらに,各年代における微生物群集内の多様性を推定し,また,現生の微生物群集間の系統組成やハプロタイプ構成と関連解析を行うことで,過去の環境変動と微生物群集間にどのような関連性があるのかを推定する.
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