研究課題/領域番号 |
17H01857
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
淺原 良浩 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (10281065)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 同位体 / 鉄 / ネオジム / 海洋 |
研究実績の概要 |
鉄は海洋の生態系をコントロールする重要な要因の一つであるが、海洋一次生産者である植物プランクトンが摂取している鉄の起源や化学形態に関する知見は少なく、そのため大陸などからの鉄の供給と生物生産の関係を定量的に評価することが困難である。本研究では、鉄(Fe)の安定同位体とネオジム(Nd)の放射壊変起源同位体を併用し、植物プランクトンが摂取する鉄の起源・形態を特定することが第一の目的である。さらに、この結果に基づき、北太平洋亜寒帯域や北極海に供給される鉄の起源・量の季節変化・年変化をFe、Nd同位体データから推定し、生物生産量・生物群集の変化のデータを対比しながら、これらの海域の生物生産と陸域からの鉄供給との関係を定量的に評価することが第二の目的である。 初年度は、第一の目的である、海洋の沈降粒子中の様々な成分のFeとNdの同位体的特徴を把握するために、分析技術の確立を目指した。具体的には次の2点である。(i)逐次溶解法による沈降粒子試料からの各種構成成分の分離・抽出条件の最適化を進めた。北極海の沈降粒子試料を用い、逐次溶解法の最適化条件の決定、Fe、Ndの分離・抽出、などの試料の化学処理を進め、手法はほぼ確立した。Nd、Feの同位体比測定には、代表者の研究室の表面電離磁場型質量分析(TIMS)、韓国地質資源研究院(KIGAM)の多重検出器型ICP-MS(MC-ICP-MS)をそれぞれ用いた。(ii)珪藻画分などの極微量ネオジムの同位体比測定の高感度化、高精度化を目指し、10~20ngのNd量で、100~200ngのNd量の同位体比測定で得られる精度と同レベルの精度が得られることを確認した。また、数ngのNd量でも起源解析に必要な同位体比の精度が得られることを確認した。 これらの研究成果の一部は国内会議で発表しており、2年目以降に国際誌に論文を投稿する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度当初の交付申請書に記載した研究実施計画は順調に進展しており、予定していた実施内容はおおむね達成している。その理由は主に次の3点である。 (1)逐次溶解法による沈降粒子試料からの各種構成成分の分離・抽出条件の最適化についてはほぼ確立し、2年目以降の本格的な分析・解析を進めていくための準備は整った。(2)Feの同位体比測定については、総合地球環境研究所のMC-ICP-MSで主に実施する計画であったが、平成29年8~9月に韓国地質資源研究院(KIGAM)のMC-ICP-MSでのFe同位体比測定の立ち上げを行い、KIGAMでもFe同位体比測定を実施できる態勢を整えた。(3)極微量ネオジムの同位体比測定の高感度化・高精度化について、当初は、通常のNdメタル(Nd+)ビームではなくNd酸化物イオン(NdO+)ビームによる高感度化で十分な精度を達成した。しかしながら、酸素同位体補正に手間がかかるなどの課題もあった。そこで、同位体比測定直前の試料フィラメントの加熱方法の改良などにより、Ndメタルビームでも10~20ngのNd量で十分な同位体比精度を確保することに成功した。この方法では、Nd同位体比測定の時間短縮も期待でき、実試料で多試料の分析をする際にも有効である。 平成29年度の研究実施計画は、以上のとおりおおむね順調に進展しており、平成30年度以降の3年間で当初の研究目的を達成できる見通しがある。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究実績を踏まえ、今後の研究を推進する方策として次の3点を考えている。 (1)初年度(平成29年度)の研究体制は研究代表者1名であった。2~4年目にセディメントトラップの実試料の分析・解析を本格的に推進していくため、生物海洋学および大気ダストの研究者の2名の研究分担者、1名の研究協力者を追加することにした。平成30年4月に代表者、分担者、協力者が集まり、研究計画の詳細の確認と調整を行ったのち、分析に着手する。 (2)NdおよびFeの同位体比測定を効率的に実施する。Nd同位体比測定については、代表者の研究室の表面電離磁場型質量分析計(TIMS)を活用し、初年度に確立した極微量ネオジムの測定法で効率的に同位体比測定を進める。Fe同位体測定については、総合地球環境研究所(RIHN)と韓国資源地質研究院(KIGAM)の多重検出器型ICP-MS(MC-ICP-MS)を用いる。KIGAMのMC-ICP-MSについては、名古屋大学とKIGAMとの同位体地球化学研究プロジェクトの一環として利用する計画である。 (3)本研究では、北太平洋亜寒帯域の沈降粒子(セディメントトラップ試料)を研究対象としているが、沈降粒子に加え、同一地点の懸濁粒子、堆積物の分析も行う。セディメントトラップ試料には、限られた試料量、捕集効率の補正、などの問題点がある。沈降粒子、懸濁粒子(現場濾過試料)、堆積物の3つのタイプの試料について、各種構成成分のFe、Ndの同位体組成の類似性・相違性に着目し、沈降粒子試料の弱点を補うことを検討している。
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