研究課題
鉄は海洋の生態系をコントロールする重要な要因の1つであるが、海洋一次生産者である植物プランクトンが摂取している鉄の起源や化学形態に関する知見は少なく、そのため大陸などからの鉄の供給と生物生産の関係を定量的に評価することが困難である。本研究では、鉄(Fe)の安定同位体とネオジム(Nd)の放射壊変起源同位体を併用し、植物プランクトンが摂取する鉄の起源・形態を特定することが第1の目的である。さらに、この結果に基づき、北太平洋亜寒帯域や北極海に供給される鉄の起源・量の季節変化・年変化をFe、Nd同位体データから推定し、生物生産量・生物群集の変化のデータと対比しながら、これらの海域の生物生産と陸域からの鉄供給との関係を定量的に評価することが第2の目的である。2年目は、初年度に確立した逐次溶解法を活用し、沈降粒子の実試料の分析・解析を本格的に開始した。沈降粒子試料(セディメントトラップ試料)の生物学的、鉱物学的側面も含めた総合的な解析を進めるため、2年目以降の本研究計画を遂行するための研究体制は、研究代表者1名に新たに2名の研究分担者を加えた。4月に代表者と分担者が集まり、研究計画の詳細の確認と調整を行ったのち、分析に着手した。具体的には、北太平洋亜寒帯域の沈降粒子に逐次溶解法を適用し、各段階の溶出成分について主成分・微量成分の定量分析、Sr、Nd同位体分析を進めた。その結果、中層水と深層水の沈降粒子の組成が、可溶性成分(鉄マンガン酸化物成分など)において異なるだけでなく、不溶性の珪酸塩砕屑性粒子についても異なることが新たに確認された。特に、同位体組成に明瞭な差が見られた。これは、粒子の沈降過程での凝集・分散過程を反映しており、海水中で可溶性・不溶性の様々な化学形態を持つ鉄の挙動の探る重要な手掛かりとなる成果である。
3: やや遅れている
平成30年度当初の交付申請書に記載した研究実施計画はやや遅れており、予定していた実施内容を完了できていないものがある。当初予定どおり進捗している点と遅れている点(問題点)を下記に記す。(1)初年度に確立された分析法に基づき、2年目(平成30年度)は実試料への適用に取り組んだ。具体的には、北太平洋亜寒帯域の沈降粒子に逐次溶解法を適用し、各成分の主成分、微量成分の定量分析、Sr、Ndの同位体分析を進めた。その結果、珪酸塩砕屑性粒子について複数の起源物質を特定することに成功するとともに、沈降過程での珪酸塩砕屑性粒子の組成変化を新たに確認する、などの成果が得られた。(2)分析法の問題点が確認されたため、分析試料数は当初予定よりやや少なく、大まかな季節変化を見出したものの、詳細な(1ヶ月単位の)季節変化の解明に至っていない。。(3)(2)の分析上の問題から、化学処理過程におけるFe同位体分別が危惧されたため、実試料のFe同位体分析の実施を保留している。平成30年度の研究実施計画は、以上の通りやや遅れているものの、次項目に記載した今後の研究推進計画にしたがって 3年目の前半までに遅れを取り戻すことができる見込みである。
3年目(令和元年度)は、分析手法の問題点を解決した上で、沈降粒子の年変化・季節変化の解析に取り組む。(1)まず、分析上の問題点を解決するため逐次溶解の条件設定を一部見直し、さらに、想定外に少なかった珪酸塩砕屑物成分の分析法の見直しを行う。(2)8月頃に代表者と分担者、協力者の計3名が集まり、2年目の分析結果と上記の手法の見直しの結果をもとに、沈降粒子の年変化・季節変化の本格的な分析に向けた計画を議論する。その後、実試料の分析を再開する。(3)年度末の3月までに、年変化 ・季節変化のデータの取得を目指す。その上で、化学組成、同位体組成、鉱物組成の1年間の時系列変化を対比しながら、起源物質の特定とその季節変化を明らかにする。NdおよびFeの同位体比測定は、代表者の研究室の表面電離磁場型質量分析計(TIMS)と韓国資源地質研究院(KIGAM)の多重検出器型ICP-MS(MC-ICP-MS)をそれぞれ用いて推進する。MC-ICP-MSについては、名古屋大学とKIGAMとの同位体地球化学の研究プロジェクトの一環で利用する計画である。これまでに得られた研究成果を国内会議等で発表するとともに、国際誌に論文を投稿する。
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