研究課題
我々のグループは、熊本地震に伴い地域地下水環境にどのような変化が生じたのかを統合的に理解することを目的に、日本随一の地下水都市であり極めて密な地下水観測網を有する本地域から抽出した水位、水質、同位体比、水温、菌叢データを駆使し、以下の班を設けることで、地下水流動変動と水質変化機構の全貌の解明に挑戦する。全体の3年目を修了した時点において各班について以下のような新たな結果を得ることができた。●水位班:観測井戸地下水位データを基に広域地下水流動系における水文学的変化が明らかとなった。主な発見として、断層裂罅系の発生に伴う水の地下深所への呑み込み現象、ならびに、山体地下水の解放に伴う下流部地下水位上昇現象があげられる。●水質班・汚染班:水質データ解析を基に広域地下水流動系における水質変化機構が明らかとなった。主な発見として、山体地下水の解放・混合に伴う希釈現象、断層裂罅系を通じた深部流体湧昇現象、断層破壊に伴う溶存ケイ素の増加、不飽和帯における土壌水の落下現象などがあげられる。顕著な汚染促進のシグナルを得ることはできなかった。●地震予知班:これまでに採水した水試料の分析を継続し地震前後の水位・水質データベースの構築を継続してきた。現在までのところ、熊本地震では地震予知につながる顕著なシグナルは得られなかった。●新湧水班:阿蘇地域に出現した新湧水の起源や湧出メカニズムについて、現場調査ならびに既存文献の整理を完了させ、昨年までに国際論文掲載に至っている。●微生物班:本年度も昨年度と同地点において採水調査を実施し、地震後3年以降の推移を追跡した。その結果、地表水の地下への呑み込みと山体地下水の解放に伴い、地表や山体に生息していた微生物が地震後に平野部地下水流動系に付加されることで地域帯水層における菌叢が長期にわたり大きく変化する実態が明らかにされた。
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画していた各班における実施計画は全て実行し、それに対する結果も整理されてきた。水位班、水質班、微生物班からは世界初の発見が多数見つかり極めて大きなインパクトを持つ成果を上げることができた。新湧水班の活動は昨年度国際誌に報告したが、当初予定になかったより詳細な採水に基づく研究を現在も継続している。一方、本研究の枠組みでは顕著な汚染促進のシグナルを得ることはできなかったため、汚染班の活動は水質班の活動と統合させ総合的解釈に役立てている。また、検討の結果、顕著な地震予知につながるシグナルは検知できなかった。いずれにしても、当初計画を上回る実績を上げることができ極めて順調に研究が進行している。主な研究成果として、断層裂罅系の発生に伴う水の地下深所への呑み込み現象の発見を、当該研究領域のトップジャーナルであるWater Resources Researchに掲載した。この内容はEarth & Space Science News (EOS) Editors’ Highlights「Groundwater Drawn Downward After Kumamoto Quake」によって世界の幅広い研究者に対するニュースとして報道され、学術的に極めて貴重な発見であることが広く認識された。また、地震から3年が経過した2019年4月の時点で熊本市民向けの市民公開講座『巨大地震が熊本の地下水環境に与えた影響の科学的解明』を計画し、来客者364名を迎えた極めて大きな講演会を実施した。同時期に地元新聞にいくつもの解説を設け、研究の成果を市民の方に還元する最大限の努力を行った。さらに、本研究から得られた様々な知見を取りまとめ『巨大地震が地下水環境に与えた影響』と題した日本語での一般書籍を出版し、地域の方々のみならず全国の一般読者・研究者に対し教科書になる一冊を創出した。
水位班:山体湧水の解放現象について論じた論文の掲載を達成する。また、その他水温、水文モデル、年代トレーサーを用いた研究結果を論文掲載にまでもっていく。水質班・汚染班:広域地下水流動系を対象とした水質変化メカニズムについて水質解析ならびに統計的手法を用いた解析の双方のアプローチに基づく研究成果を国際雑誌に掲載する。微生物班:今年同様、来年度も同地点において継続調査を実施し、地震後4年以降の推移を追跡する。また、これまで得られた知見を基に国際雑誌投稿までこぎ着けたい。最終年度にも補足的な採水調査ならびにデータ収集は実施すると共に、今後は特にこれまで得られた成果を取りまとめ、国際科学雑誌に多くの論文が掲載されることを目指す。既に一部の結果はScientific Reports誌やWater Resources Research誌などのトップジャーナルに掲載済みである。研究プロジェクトはここまで当初の達成目標を上回る結果と高いモチベーションを保って進めてこれている。今後、最終成果として重要な論文掲載活動を加速的に進めていく予定である。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Water Resources Research
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http://accafe.jp/hosono/index.php?FrontPage