研究課題
大気エアロゾルは、呼吸によって生体内に入り込み健康に悪影響を及ぼすことが知られている。エアロゾルの帯電状態については、それが粒子の生体沈着に関わるため重要であるにも関わらず、ほとんど研究が進んでいない。そこで本研究では、実環境大気中エアロゾルの帯電状態を解明することを目的として研究開発を行った。平成30年度は、実環境大気エアロゾルの帯電状態の計測手法の開発およびフィールド調査を進め、下記に示す重要な成果を得た。KPFM法による表面電位測定の校正方法の検討を行った。ガラス基板上の一部分にイオンスパッタを用いてAu を蒸着し、このAu 部分に安定化電源を用いて任意の電圧を印加して、KPFMによりAu 部分の印可電圧が表面電位として正しく測定されるかを確認した。実験条件は、(1) 塗布Au への印加電圧を0 V から2 V まで0.5 Vずつ変化させた時、および、(2) 0 V から0.4 V まで0.1 V ずつ変化させた時、の2通りとした。その結果、いずれの実験においてもAuに印可された電圧をKPFMにより表面電位として正しく認識できており、その分解能は0.1 Vが確保されていることがわかった。フィールド観測の結果としては、2017年から2018年に掛けて得られた約1年分の実環境大気エアロゾルの帯電状態の解析を行った。その結果、測定日によって帯電分布は異なり、帯電粒子割合は75~90% 程度であった。これらの帯電分布の違いが何に起因するものなのかを検討するため、各分布の非帯電粒子(0 価の粒子)の割合と気温や湿度などの気象条件との相関を調べたところ、実環境大気エアロゾルの帯電状態は容積絶対湿度と負の相関が強いことがわかった。つまり、容積絶対湿度が高いほど非帯電粒子割合が低く(帯電粒子割合が高く)なっていることがわかった。
1: 当初の計画以上に進展している
実環境大気エアロゾルの帯電状態の計測手法の開発、およびエアロゾルの帯電状態のフィールド調査、ともに大きな問題なく現在まで進めている。さらに2018年度は、当該研究分野では評価の高い国際誌3本を含む合計4本の論文を掲載することができた(Atmospheric Environment (IF=3.708) 2本、Aerosol Science & Technology (IF=2.000) 1本)。このうちの1本は、本研究が国外の研究者からも注目され、実際に中国の西安において、当研究グループにより開発された技術を用いて大気観測がなされ、それが論文となったものである。さらに本研究の成果が、慶應義塾大学の研究ハイライトとして特集された。従って、2018年度の達成度は、当初の計画以上に進展している、と判断した。
KPFM法による個別粒子の帯電状態計測を進める。特に、粒子を固定しているカプトンテープが電荷を帯びている可能性と、そのことによる測定結果への影響の有無を検討する。また、表面電位の測定対象物質の物性がKPFM法による測定結果にどのような影響をもたらすかの検討を行う。さらに、一般的に平面に対して適用されるKPFM法を粒子という三次元的表面に適用する際に考慮すべきエッジ効果の解釈方法も合わせて検討する。また、これまでのフィールド観測の結果から、エアロゾルの帯電と容積絶対湿度に相関があることが分かってきた。しかし、日内で容積絶対湿度が連続的に変化した場合、帯電状態が同様な対応関係を示すかは確認できていない。そこで、エアロゾルの帯電状態の連続測定を通じて、容積絶対湿度の連続的な変化に対する帯電状態の応答を確かめるとともに、その他気象条件との相関についても検討を行う。具体的には、人為的に容積絶対湿度を変化させ帯電粒子割合が高くなった空気を乾燥させた際に帯電状態が変化するか、すなわち粒子の帯電状態の可逆性の確認を行う。これと合わせて、大気イオン濃度を測定することができるイオンカウンターを用いて、容積絶対湿度と大気イオン濃度の相関を調べる。さらに二次生成粒子とエアロゾルの帯電状態との関係を調べるため、日射量や、SMPSにより計測される微小粒子濃度とエアロゾルの帯電状態との相関、さらには微小粒子濃度と大気イオン濃度との関係を明らかにする。得られた成果は国内外の学会において発表し、国際的な学術誌への論文の投稿を行う。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件) 備考 (2件)
Atmospheric Environment
巻: 197 ページ: 141-149
10.1016/j.atmosenv.2018.10.035
Aerosol Science and Technology
巻: 53 ページ: 394-405
10.1080/02786826.2019.1569198
巻: 203 ページ: 62-69
10.1016/j.atmosenv.2019.01.040
大気環境学会誌
巻: 54 ページ: 28-33
http://www.applc.keio.ac.jp/~okuda/research/index.html
https://research-highlights.keio.ac.jp/2019/03/b.html