研究課題/領域番号 |
17H01865
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
大浦 健 名城大学, 農学部, 教授 (60315851)
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研究分担者 |
新妻 靖章 名城大学, 農学部, 教授 (00387763)
グルゲ キールティ・シリ 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 動物衛生研究部門, ユニット長 (50391446)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ClPAHs / ハロゲン化PAHs / 水圏環境 / マイクロプラスチック |
研究実績の概要 |
水圏環境は様々な環境汚染物質の最終シンクに位置付けられ、地球環境汚染を把握する上で重要な環境媒体である。本研究では、POPs条約対象物質の類縁化合物である塩素化多環芳香族類(ClPAHs)について、①水圏・生物圏における汚染実態と生物濃縮過程の解明、②海洋浮遊物表面における二次的生成能の評価、③組織細胞ならびに水圏生物の毒性発現・作用機序の解明を目的とした。 平成30年度は前年度に検討を行った前処理方法でスリランカ汽水湖の4地点から採取した表層水中のClPAHsならびに臭素化PAHs(BrPAHs)の分析を実施した。その結果、全ての環境水においてClPAHsまたはBrPAHsが検出された。今回、汽水湖の中心部では粒子相からハロゲン化PAHsは検出されず、溶存相で5~6種類のClPAHsが検出された。流入河川に近い地点では、粒子相及び溶存相それぞれで3種、31種のハロゲン化PAHsが検出された。粒子相と溶存相のハロゲン化PAHsの総濃度を比較すると溶存相へ多く存在していることが明らかとなった。また、河川の流入地点に最も近い地点のハロゲン化PAHs総濃度及びPAHs総濃度が他地点よりも高い傾向であったことから、汽水湖におけるハロゲン化PAHs汚染は河川からの流入の影響が示唆された。さらにスリランカで採取された魚体内からも複数のClPAHsが検出された。魚における脂肪重量とClPAHs濃度には有意相関が認められなかったことから、ClPAHsは食物連鎖による生物濃縮の影響が少ないことが予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年導入された高分解能GC/MSの最適分析条件が確立されたことで、環境試料の分析へ着手することができた。とくに、海水中からハロゲン化PAHsを検出したのは初めての例であり、重要な研究成果が得られたと思われる。また、日本とスリランカで採取された魚におけるハロゲン化PAHsの分析も実施できた。両者の蓄積量や濃度プロファイルに違いが見られたことから、水圏環境においてハロゲン化PAHsの暴露経路は多岐にわたることが予想される。さらに、サンプリングを通じてスリランカ海洋大学と共同研究に伴う教員の受け入れを実施し、人物交流に発展することができた。本年度はフィリピンの海域においても海水並びに魚の採取を実施できたため、次年度に向けた準備も着実に行われている。このようにサンプリングが複数地点で実施され、更に人物交流まで発展したことは当初の計画よりも早く、極めて順調に研究が遂行されていると思われる。一方で、マイクロプラスチックの採取はサンプリングの場所によって目標の重量まで採取できず、本年度中にマイクロプラスチック中のハロゲン化PAHsの分析には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果により簡便且つ高感度でClPAHsを分析できる手法を開発し、実際の環境試料へ適応した結果、十分に分析可能であることが確かめられた。次年度は本手法を用いて様々な環境試料の分析を展開する。具体的には、フィリピンで採取された海水並びに海水魚におけるClPAHsを分析し、プロファイル解析により発生源の推定を試みる。さらに、海洋生物の食物連鎖によるClPAHsの生物濃縮の影響をPCBなどのPOPs濃度から評価する。さらに、生物濃縮の過程を裏付けるため、水圏生物種の安定同位体を測定し、生物濃縮係数の算出を試みる。一方、魚体内におけるハロゲン化PAHs分析の結果から、ある特定のClPAHsが高濃度に蓄積していることがわかった。そこで水圏環境の毒性評価として、これら高濃度蓄積するClPAHsの代謝物の同定を行う。具体的には、薬物代謝酵素によるClPAHs分解過程をモニタリングし、生体蓄積性を評価するとともに代謝物の遺伝毒性を検討する。
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