研究課題
本研究は、海底下の微生物によるメタン生成の生成過程、生成速度、集積過程を定量的に把握し、資源探査や二酸化炭素の海底下貯留・再資源化の研究促進に貢献することを最終的な目標とする。このために、メタンの生成温度の指標となる特殊な同位体分子(クランプトアイソトープ:一つのメタン分子中に重い同位体13CとD両方を含むメタン分子(13CH3D))の高感度分析システムを確立する。微生物起源メタンの13CH3Dはメタン生成速度が速い場合には、非平衡になりその生成温度を反映しないという現象を利用して、培養実験によりメタン生成速度がどの程度遅くなれば13CH3Dが温度平衡に達するかを調べ、メタンの生成速度に制約を与える指標を新たに確立し、海底下の微生物によるメタン生成に時間軸という新しい指標を得ることを目標とする。平成29年度は、クランプトアイソトープの分析システムの高感度化のために、液体ヘリウムを用いた小型冷却器を購入した。この冷却器を使うことにより、充填剤なしに温度コントロールだけでメタンを捕集することが可能となり、メタンの精製、濃縮が効率良く行うことができると期待される。また、地球深部探査船「ちきゅう」を用いた表層科学掘削プログラム(Chikyu Shallow Core Program: SCORE)による、襟裳岬沖掘削に参加し、メタン生成が速く進行していると考えられる海底堆積物およびガス試料の採取を行った。得られた試料中のメタン濃度は非常に高く、船上でのメタン/(エタン+プロパン)濃度比の分析結果からほぼ100%が微生物起源メタンであることが示唆される。この試料はメタン生成速度が速い海底堆積物中のメタンとして、クランプトアイソトープが温度平衡に達しているかどうかを調べるのに最適な試料になると期待される。
2: おおむね順調に進展している
計画では、平成29年度にメタンのクランプトアイソトープ分析の高感度化に着手する予定であり、予定通りメタンの捕集のために液体ヘリウムを用いた冷却器を導入した。また、海底堆積物では、メタンの生成速度が遅くクランプトアイソトープが温度平衡に達しているというこれまでの仮説に対し、微生物起源メタン濃度が高く非常にメタン生成速度が速いと考えられる海域(襟裳岬沖)でガス試料を多く採取することができた。以上により本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
平成30年度は、Δ13CH3Dの高感度分析システムを確立する。メタンの濃縮のために、液体ヘリウムを用いた小型冷却器を用いて20Kに冷却したトラップにメタンを濃縮し、室温にもどすことで濃縮時の同位体分別の影響の可能性を最小限にとどめた濃縮-導入システムを開発する。分析システムの確立後、ケーススタディーとして、1)地温勾配が大きく、微生物によるメタン生成の温度域が広いことが予想されるIODP第370次研究航海、室戸沖限界生命圏掘削で得られたガス試料、2)微生物によるメタン生成が活発なSCORE掘削航海で襟裳岬沖で得られたガス試料、3)微生物起源メタンと熱分解起源メタンが混合していると考えられる新潟の陸上泥火山のガス試料の分析を行う。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Frontiers in Earth Science
巻: 6 ページ: 1-13
10.3389/feart.2018.00036
Frontiers in Microbiology
巻: 8 ページ: 1-18
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ぶんせき
巻: 5 ページ: 200