研究課題/領域番号 |
17H01874
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
坂口 綾 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (00526254)
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研究分担者 |
鄭 建 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 福島再生支援本部, 上席研究員(定常) (30370878)
横山 明彦 金沢大学, 物質化学系, 教授 (80230655)
山崎 信哉 筑波大学, 数理物質系, 助教 (70610301)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ネプツニウム / アクチノイド / トレーサー / 海水循環 / スパイク |
研究実績の概要 |
表層環境の物質循環や、被ばく線量評価に関わる環境中のアクチノイド研究において、高レベル放射性廃棄物の長寿命重要核種でありながら、その濃度・存在量すら広域的に定量評価が行われていなかったネプツニウム(Np)同位体に着目し、質量分析のためのNp-236スパイク製造、高マトリクス試料からの簡便なNp分離濃縮法の開発を行い、長半減期Np-237の超高感度定量法を確立する。これにより、環境中Np-237を定量的に評価するとともに、環境挙動を明らかにし、最終的にはNp-237を“一般的な環境中アクチノイド”の一つに加え、新たな知見からの地球化学的研究ツールとして構築する。このような最終目的の元、30年度の計画に沿った実験を試みた。今年度得られた結果ならびに実績を以下に示す。①照射試料の化学分離法:これまでに発表されているような方法では、ミリグラムオーダーの大量のウラン(U)から目的核種である極微量のNpを化学分離するのは本研究の測定精度に対して十分でないことが明らかとなり、新たに本研究の測定精度に耐えうる分析法について種々の検討を行った。実際に、Npは分離できるが回収率が芳しくない事さらには実験操作や購入試薬のコンタミネーションの問題が解決されておらず、次年度の最大課題として繰り越す。②ビームタイムの確保:来年度に向けたビームタイム申請を行い、課題が採択された。③海水からのNp分離:環境試料中からAGMP-1M樹脂を用いて、質量分析用にNp化学分離法を開発した。現在、国際論文誌への投稿準備中である。現在は、船の上で簡易的に海水の前処理を行うべく新規に検討を行っており、大量の海水を陸に持ち帰らずとも可能な方法を目指す。研究の実績および成果は、環境中アクチノイド測定・挙動に関する結果として、国際誌3報にまとめすでに発表した。国内外の学会発表(招待講演含む)も9件行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
30年度は主として、照射実験に使用するアクチノイドスパイクの再選定と純度再調査を行った。これまで使用していた核種スパイクが、その製造方法や処理方法により、我々の研究における妨害となりうる質量数の核種を含んでいる事が明らかになった。そのため、Np, Pu, Uスパイク核種溶液におけるカウントの再調査を行い、実験に耐えうる純度か否かの検討ならびに模索を行っている状況である。現在明らかになっている状況では、ミルキングして得られるNpスパイクが非常に汚染していることや環境バックグラウンドが高いために製造Npの妨害となり得るため、更なる検討が必要である。環境アクチノイドに関する分離法確立とその応用としては、順調に進められている。全体としての業績は、30年度一年間で国内外発表が9件、査読付き国際誌には3件投稿、受理されており平均すると研究は順調に進んでいると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
① 232Th(7Li, 3n)236m/gNp、238U(p, 3n)236m/gNpの核反応断面積測定とスパイク製造 前述したように、ターゲットとする大量のUから極微量のNpを本研究の測定精度に耐えうるような精製分離が出来ておらず、精度良い質量分析が困難となっている。また、スパイクに関しても妨害核種の存在から本研究に耐えうるデータの精度が得られていない。そのため、まずは化学分離についてこれまでに報告のある方法や確立した方法とは別に新たに方法を検討する。スパイクについては引き続き対処法を検討し、精度に耐えうるデータを出すことを目指す。実際に実験により得られた断面積より、236/237Np比が最も大きくかつ製造量が多い条件を確定し、スパイク製造を試みる。また、ThからのNp分離に関しては、精製法は適応できる目途が立ったのでアクチノイドスパイクに関してのみの検討のみで良いと判断できる。 ②海水試料からのNp濃縮・精製 30年度に環境試料からのNp分離について検討を行い、十分な回収率で分離精製できることが明らかになっている(論文投稿準備中)。また大量の海水中からNpを濃集する方法について既に検討済であるが、共沈するウランの妨害について検討しきれておらず、その補正が必要となる。また、大量の海水試料を持ち帰らずとも船上で簡便にNpを回収する方法についても検討を進める予定である。
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