研究課題/領域番号 |
17H01875
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井倉 毅 京都大学, 放射線生物研究センター, 准教授 (70335686)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | TIP60ヒストンアセチル化酵素 / ヒストンH2AX / NAD代謝 / クロマチン / 放射線感受性 |
研究実績の概要 |
我々は、TIP60ヒストンアセチル化酵素によるヒストンH2AXのアセチル化が、ポリADPリボシル化酵素PARP-1の活性化を促し、その結果、H2AXの交換反応を介した損傷領域のヒストンのアセチル化が亢進することを明らかにしている。さらに我々は、PARP-1の基質であるNADを合成する酵素(NADS)が、TIP60のアセチル化活性依存的にDNA2本鎖切断領域に局在することをクロマチン免疫沈降法により見出している。本年度は、TIP60によるH2AXのアセチル化が、NADSのDNA2本鎖切断領域への局在に関与しているか否かについてクロマチン免疫沈降法により検討した。その結果、細胞内でH2AXのアセチル化を阻害するとNADSのDNA2本鎖切断領域への局在が阻害されていることが明らかになった。またGFP-NADS発現細胞を用いてmicro-irradiationによるGFP-NADSの損傷部位への集積を確認し、TIP60をノックダウンした時の影響を現在検討中である。さらにγ線照射前後で、NADSが、損傷部位に集積するか否かについてアセチル化H2AXとNADSの抗体を用いたProximal Ligation Assay(PLA) assayにより検証し、細胞内の損傷部位でのアセチル化H2AXとNADSのPLAシグナルについて確認した。現在、細胞内でH2AXのアセチル化を阻害した時に、アセチル化H2AXとNADSのPLAシグナルが減弱するか否かの検討を行なっている。NADSに結合する因子の同定は、H2AXの複合体の構成因子からその候補因子を同定しているが、それら因子のノックダウン細胞を現在作製中である。NADSの放射線感受性に対する実験は、NADSノックダウン細胞を用いて行い、NADSノックダウン細胞では、野生型細胞と比較して放射線感受性が増強することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TIP60によるH2AXのアセチル化が、NADSのDNA2本鎖切断領域への局在に必要であることをクロマチン免疫沈降法により明らかにした。現在、この知見をGFP-NADS発現細胞を用いてmicro-irradiationとγ線照射前後でアセチル化H2AXとNADSの抗体を用いたProximal Ligation Assay(PLA) assayにより検討中である。当初の予定では、これらの検討はすでに終了している予定であり、その点では、やや遅れているが、すでにGFP-NADSの損傷部位への集積を確認しており、TIP60をノックダウンした時の影響については、すぐに検討できる段階にきている。さらに細胞内で、損傷部位におけるアセチル化H2AXとNADSのPLAシグナルについても確認は終了しており、現在、細胞内でH2AXのアセチル化を阻害した時に、アセチル化H2AXとNADSのPLAシグナルが減弱するか否かの検討もすぐに行える状況にある。またNADSに結合する因子をH2AXの複合体の構成因子からその候補因子を同定しており、NADSのDNA2本鎖切断領域への局在への影響をクロマチン免疫沈降法により解析する準備は整っている。さらにはNADSの放射線感受性に対するの実験を当初の予定より前倒しで行い、NADSノックダウン細胞では、野生型細胞と比較して放射線感受性が増強することが明らかにしている。これらのことから実験が概ね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、TIP60によるH2AXのアセチル化がNADSのDNA2本鎖切断領域への局在への影響をmicro-irradiationとProximal Ligation Assay(PLA) assayを用いた実験により明らかにし、さらには当初の予定である損傷部位でNADが、NADSによって産生されるか否かについての実験を円順列変異蛍光蛋白質型バイオセンサー(Circularly permuted Fluorescent Protein, CpFP-based biosensor)を用いて開始する。具体的には、我々は、制限酵素I-Sce1認識カセットとその近傍にLac O配列をタンデムに導入したU2OS細胞を用いてDNA損傷領域をDsRed-Lac I で可視化する系を立ち上げている。この細胞にすでに報告されているNADのCpFP-based biosensorにNLSをfusionさせたもの、あるいはNLS-LacIをfusionさせたものをそれぞれ導入し、安定発現細胞株を作成する。このシステムにより、NADの産生が、DNA損傷部位で検出することができれば、NADSのKDあるいはKO細胞でNAD産生が抑制されるか、否かを検討する。同様にTIP60によるH2AXのアセチル化を阻害した細胞でのDNA損傷部位でのNAD産生への影響を見る。またPARP-1ダイナミクス、H2AXの交換反応、および損傷領域のヒストンH4 K16のアセチル化の亢進におけるNADSが関与しているか否かについて、PARP-1とH2AXのダイナミクスについては、micro-irradaitionを用いたFRAP解析、そしてH4のアセチル化については免疫沈降法により明らかにする。
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