ヒトを含む高等動物の細胞の核内の構造と機能の制御には、翻訳後修飾やシグナル伝達制御が関与する。本研究では細胞核内のクロマチンや核質の変化を制御する分子基盤を解析した。その中で、微小核にも着目した。微小核は標準的な顕微鏡でも検出可能なため、古くから様々な細胞や組織で観察されてきた。がん化した細胞株でよく見かけることから、ゲノム制御のゆらぎの指標であり、細胞がん化のマーカーとして広く認知されてきた。一方、がん研究のみならず、細胞生物学・ゲノム科学・生物進化に関する最近の研究から、微小核が非感染性免疫応答やクロモスリプシスなどに関わることも明らかになっている。さらに、人工オルガネラや人工細胞の構築を目指す研究者からも、細胞内における微小核の形成と維持の制御研究は注目されている。こうした状況から、微小核に関する研究分野は古くて新しい生命科学の注目分野の一つになりつつあると考えている。 次世代DNAシークエンサーによる遺伝情報のBig Dataが蓄積している。同時に、DNAの非情報性に関する知見も蓄積している。cytoplasmic DNA(cytoDNA)は細胞内で非自己として認識され、遺伝情報としては機能しない。このため、加齢に伴って増加するがん、心血管疾患、神経変性疾患に関係する非感染性免疫応答(sterile inflammation response)を誘引する。また、微小核内のcytoDNAは、ゲノムの複製・損傷・修復・組み換え制御をかく乱するクロモスリプシス(chromothripsis)を誘引して、がん細胞ゲノムを多様化させる。細胞質中に現れるクロマチン断片、損傷ミトコンドリア、レトロトランスポゾン由来DNAや微小核内のDNAにより誘導されるDNAの非遺伝情報性に関する研究は未開拓の研究分野である。本研究から核と微小核のタンパク質に関するいくつかの知見を得た。
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