研究課題
肺胞を覆う肺サーファクタントに含まれる不飽和脂質分子は、肺の収縮・拡張に重要な役割を果たしている。近年、不飽和脂質分子は、空気中に含まれる程度の極低濃度オゾン条件下で酸化されることが指摘されている。しかし、その分子レベルでの反応機構については反応生成物を含め未解明の部分が多い。そこで、東北大学側は極低濃度オゾン(30 ppb)による不飽和脂質分子の酸化反応を界面選択的な分光法であるヘテロダイン検出和周波発生分光法を用いて測定した。従来のホモダイン検出と呼ばれる検出法と比較してヘテロダイン検出を用いることで高感度での測定が可能となるだけでなく、観測される振動バンドの帰属を正確に行うことが可能となった。その結果、極低濃度オゾンであっても不飽和脂質は炭化水素鎖の二重結合を選択的にかつ効率的に酸化され、主な初期生成物はカルボン酸ではなくアルデヒドであることが明らかとなった。北大側ではOrbitrap LC-MSにより、分析条件を最適化し、様々な不飽和脂質の酸化物を同定した。また、バルク溶液の中に含まれている酸化物の定量ができ、反応条件と反応機構の相関についても検討した。さらに、末端官能基による影響について、グリセロール極性官能基をもつリン脂質分子の同定と定量方法が確立された。なお、膜内分子のパッキン状態の影響に関して、POPC/DPPC混合膜内にコレステロールを添加し、代謝産物を定性的・定量的に検討した。さらに、POPG単分子膜内にトコフェロール、水相にアスコルビン酸及びマガキ由来の抗酸化物質を添加したところ、酸化物生成の抑制が確認された。
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