研究課題/領域番号 |
17H01880
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
渡辺 肇 大阪大学, 工学研究科, 教授 (80212322)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | レポーター遺伝子 / 蛍光タンパク質 / ミジンコ / CRISPR/Cas9 / Gal4 |
研究実績の概要 |
本研究では、化学物質が有する内分泌かく乱物質作用を簡便に評価する系を構築することを目的としている。このためにミジンコ(Daphnia magna)を対象として、遺伝子工学的手法により種々の生物の核内受容体遺伝子とその応答システムを組み込んだバイオアッセイ系を構築する。従来から核内受容体を用いたレポーター系は存在していたが、培養細胞や酵母を用いた系が中心となっており、試験物質の前処理が必須であった。ミジンコを利用することで化学物質の前処理が簡便化され、リアルタイムのモニタリングが可能となり、簡便かつ迅速なバイオアッセイが可能となる。そこで本研究では、取り扱いの容易なミジンコに培養細胞の利便性を組み込んだトランスジェニックミジンコを作製し化学物質影響評価に利用することで、煩雑な前処理を省略した簡便で的確に内分泌かく乱作用を評価する系の確立を目指す。 本年度は まずレポーター遺伝子として蛍光タンパク質を用い、レポーター遺伝子の上流の制御領域にはGAL4遺伝子応答配列(UAS)をもつDNAを挿入し、このDNAをCas9を用いた非相同組換えによりミジンコゲノムに挿入し、トランスジェニック個体を得た。これにより、リガンド依存的に活性化状態になった核内受容体は、融合されたGAL4DNA結合領域を介してレポーター遺伝子のUASに作用することが可能となり、リガンド依存的な転写活性化をレポーター遺伝子の発現としてとらえることが可能となる。 一方、このレポーター遺伝子が実際にミジンコで機能することを確認するために、転写活性化ドメインと酵母由来のGAL4遺伝子のDNA結合領域を融合したキメラ遺伝子を導入した遺伝子を作製した。この遺伝子から試験管内で合成したmRNAをミジンコの卵に顕微注入することにより、キメラ遺伝子がレポーター遺伝子を実際に活性化することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は、高効率での遺伝子導入が報告されているバクテリオファージphiC31インテグラーゼを用いた相同組換えによる遺伝子導入技術の確立も初年度にめざしていたものの、Ga4システムの構築に集中することとした。このGal4システムを有するミジンコは計画通りに作製することができ、その機能も確認できたことから、次年度に継続して研究を展開する基盤ができたと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
従来の非相同組換えでは遺伝子挿入部位を制御できないために、同じ遺伝子断片を導入しても遺伝子のコピー数を制御できず、その発現状態が系統によって異なるなど、挿入部位による位置効果の影響も受けやすい。また遺伝子導入効率も1%程度であり、いまだ労力を要するステップとなっている。こうした問題点を克服するために、本研究では多くの生物種で実用化され高効率での遺伝子導入が報告されているバクテリオファージphiC31インテグラーゼを用いた相同組換えによる遺伝子導入技術を確立する。(1)相同組換えの標的となるphiC31のattP由来配列を有するランディングサイトDNAを我々が開発した手法により(研究成果2)、ミジンコゲノムに導入し複数系統のトランスジェニックミジンコを作製する。(2)相同組換えに必要なattB配列をもつテスト遺伝子(緑色蛍光タンパク質:GFPを用いる)を構築し、phiC31リコンビナーゼのmRNAとともにミジンコの卵に顕微注入し、導入効率を評価する。 この技術、またはすでに開発した技術を用いて核内受容体のリガンド結合領域と酵母由来のGAL4遺伝子のDNA結合領域を融合したキメラ遺伝子を導入したミジンコを作製する。 これにより、リガンド依存的に活性化状態になった核内受容体は、融合されたGAL4DNA結合領域を介してレポーター遺伝子のUASに作用することが可能となり、リガンド依存的な転写活性化をレポーター遺伝子の発現としてとらえることが可能となる。 またキメラ遺伝子導入に成功した個体の判別を効率的に行うために、赤色蛍光タンパク質を発現するトランスジェニックミジンコを利用する。キメラ遺伝子が赤色蛍光タンパク質の上流に挿入されると、赤色蛍光が消失するように遺伝子をデザインすることにより、効率的な開発を進める。
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