研究課題
プラスチックから漏出したごく微量のビスフェノールA(BPA)が、特に胎児・乳幼児の脳神経系へ悪影響を及ぼすと強く懸念されている。申請者らはBPAの特異的ターゲットとして、エストロゲン関連受容体γ(ERRγ)を世界に先駆けて発見し、報告した。そしてこの発見を契機に、ERRγ(が存在することにより、エストロゲン受容体α(ERα)に対する弱いBPAの活性が増強される現象を見いだした。そして、これがBPAの悪影響発現に至る根源であると考えるに至った。本研究の目的は、この発見に基づき、低用量作用の分子機構の本質を、生化学的および構造解析学的手法で解明することである。これは、ERαおよびERβの存在意義の解明にも繋がる普遍的で重要な課題である。三年計画の第二年度である本年度は、初年度に実施したERαとERβ及び、ERαとERRα、ERRβ、ERRγのキメラ受容体の転写活性試験で得られた結果の要因を詳細に解析するために、転写活性試験用いたものと同じ培養細胞HeLaを用いて、ホ乳類培養細胞Two-hybrid試験を実施した。特に、核内受容体のN端側に位置する転写調節領域と、C端側に位置する転写調節領域が、相互作用するのかどうかに注目した。さらに、ERRγの存在によりERαの活性が増強される要因として、ERαとERRγが近位に存在して相互作用ためなのか、複合体の一部として遠位に存在するためなのかを明らかにすることを目指した。そのために、内在性タンパク質の相互作用や局在を細胞内のその場で検出できる近接ライゲーション法により、ERαとERRγの相互作用を解析しているところである。
2: おおむね順調に進展している
三年計画の第二年度である本課題研究の進捗状況は、概ね計画通り順調に進展している。本年度も研究実施計画のとおりに、初年度に作製したホ乳類培養細胞Two-hybrid試験を用いて、相互作用解析を実施した。特にERαとERRγのN端側に位置する転写調節領域と、C端側に位置する転写調節領域が、相互作用するのかどうか明らかにすることを目指した。現時点では明確な相互作用を検出するには至っていないが、ERαのN端側どうしで相互作用する傾向があるなど、面白い結果を得ている。本年度も初年度に引き続き、次世代シークエンサーを用いた網羅的塩基配列解析のために、申請計画通りに先進ゲノム支援に申請した。これは本年度の採択には至らなかった。そこで、次年度にすぐに資料を提供できるよう、引き続き、現在も継続して化合物暴露による実験動物の行動解析を実施中である。さらに、ERRγの存在によりERαの活性が増強される要因として、ERαとERRγが近位に存在して相互作用ためなのか、複合体の一部として遠位に存在するためなのかを明らかにすることを目指して、近接ライゲーション法(Proximity Ligation Assay:PLA)を実施しているところである。この方法では、オリゴヌクレオチドが結合した2種類の抗体を用いる。これらのオリゴヌクレオチドが近接し相互作用することを利用して環状構造が形成され、酵素によりこの環状構造のDNA配列が増幅されるシステムになっており、蛍光標識されたオリゴヌクレオチドが増幅されたDNAに結合することで相互作用を可視化できる。現在、最適条件を確定しようとしているところである。このように本研究はほぼ計画通りに推移しており、当初計画を順調に達成している。
今後は、まず、引き続き平成31年度に再度先進ゲノム支援に研究支援を申請し、化合物を曝露したマウス脳における遺伝子発現の変動をシークエンサーを用いた網羅的塩基配列解析により解明することを目指す。さらに、第二年度に行った、内在性タンパク質の相互作用や局在を細胞内のその場で検出できる近接ライゲーション法の至適条件確定し、ERαとERRγが近位に存在して相互作用ためなのか、複合体の一部として遠位に存在するためなのかを明らかにする。用いる細胞としては、ERRγの存在によりBPAのERαに対する活性増強が観察されたヒト子宮頸癌細胞HeLaを引き続き用いる予定である。さらに、BPAやBPA類縁体の培養細胞に対する影響も解析する。神経突起伸長のモデル試験系として、ラット副腎褐色細胞腫由来のPC12細胞株がよく用いられる。これをもちいて、BPAが神経突起伸長に影響を与えるか解析する。さらに神経に近い状況を反映できると期待されるヒト神経芽腫瘍細胞株SH-SY5Yを用いて、BPA暴露による影響を調べる。また、近年では構造がBPAとよく似たBPA誘導体もプラスチック原料として汎用されており、これらの影響も調べる。さらに、これらの暴露により核内受容体のmRNA量が変動するのかを解析する。標的核内受容体遺伝子としては、BPAが結合するERRγおよび脳神経系で発現する Nuclear receptor related 1(Nurr1)を予定している。なお、申請者らは脳神経系で発現する全核内受容体の発現プラスミドを既に構築済みである。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)
International Journal of Molecular Sciences
巻: 19 ページ: 1377~1377
DOI:10.3390/ijms19051377
Peptide Science
巻: 2017 ページ: 94-95
巻: 2017, ページ: 198-199