研究課題/領域番号 |
17H01884
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
齋藤 秀之 北海道大学, 農学研究院, 講師 (70312395)
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研究分担者 |
小倉 淳 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 准教授 (60465929)
高須賀 太一 北海道大学, 農学研究院, 助教 (70748409)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 環境影響評価 / ゲノム / 遺伝子発現解析 / ブナ |
研究実績の概要 |
(1)環境ゲノム学的な現地データのインベントリ構築: 調査地は重点研究サイトとして黒松内ブナ林を設定し(2011年からのデータ蓄積あり)、サテライト研究サイトとして関越トランセクトを想定した新潟県6ヶ所と群馬県3ヶ所、さらに茨城県筑波山と北海道黒松内岳、合計12ヶ所のブナ林で概況調査・試料採取・オゾン濃度測定を行った。成長生理データとして、当年枝の伸長成長量、葉のクロロフィル、窒素、リンの含有率を測定した。重点研究サイトである黒松内ブナ林ではデンドロメータによる肥大成長の経時変化を継続測定した。 (2)環境影響評価の解析アルゴリズム開発: 因果推論における遺伝子ネットワーク解析の基盤情報となるブナゲノムの精緻化を図るため、アセンブルエラーの原因をオルガネラゲノムとの混合アセンブルに求め、オルガネラゲノムに基づく改良作業を進めた。 (3)ゲノム網羅的な指標性遺伝子による環境影響評価: 光合成能力の遺伝子発現指標を開発するためRubisco activase (RCA)遺伝子に注目し、ブナゲノムデータベース(Ver.3)から3つの遺伝子コピー(FcRCA1~3)の配列を同定し、RT-PCR法による発現解析によりFcRCA2が葉で転写していることを明らかにした。さらに筑波山ブナ林の衰退程度の異なる個体を対象に、陽樹冠から採取した切り枝を光合成乗算速度測定装置で光合成能力を評価し、FcRCA2転写量が光合成能力の指標として有効であるかについて検討した。 (4)少数の指標性タンパク質による環境影響評価: 衰退木で特異的に発現するタンパク質のゲノム網羅的な探索のため、健全木と衰退木の葉を対象にフィンガープリンティング法で解析を行い、1,746種類のタンパク質を検出することができた。また光合成における炭酸固定鍵酵素(Rubisco)の定量をSDS-PAGEのCBB染色法で行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の申請動機であり衰退兆候を示した新潟県苗場山系ブナ林を中心に関越トランセクトを想定した試験地の設定と環境モニタリング・試料採取を行うことができ、フィールド作業の多くを1年目に完了させることができた。 研究環境整備の面では、ハイスペックのワークステーションを購入することでバイオインフォマティクスに関する作業がスタンドアローンで実行できる環境を1年目に整備することができ、それに伴い、学生の人材育成も併行して進めることができた点は予想以上にプロジェクトを遂行できた点である。 プロテオミクス解析は、検出できたタンパク質数が予想外に少なかったが、修正ポイントが明確であることから改善の見込みが得られており、順調に進んでいると言える。 衰退兆候を評価するための生理学的な着眼点として、窒素資源の分配と光合成能力の制御が有望であることを見出したことは特筆すべき点で、本プロジェクトにおける最大の課題を突破できる可能性が得られたことを意味しており、順調に進んでいると判断した最大の理由である。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 環境ゲノム学的な現地データのインベントリ構築では、① 環境(気象・大気汚染物質)、② 成長生理、③ 発現遺伝子のデータセットを重点研究サイトである黒松内ブナ林の1地点に絞り新規データを取得する。また、初年度のデータ解析を継続する。 ①: 気象データは、気温と降水量を最寄りの気象台データ(アメダス)を利用してデータベース化する。初年度に設けた調査地の最寄りの気象情報について、情報公開が本年度に行われる予定なので、それらのデータを入手して解析に供する。②:成長生理データは、乾燥ストレスの生理情報として炭素安定同位体比を測定して乾燥指標性遺伝子の検証データとして用いる。③:発現遺伝子データは、DNAマイクロアレイ法とRNA-seq法によりゲノム網羅的遺伝子発現量を定量する。 (2) 環境影響評価の解析アルゴリズム開発では、主成分分析やベイズ理論に基づく遺伝子ネットワーク解析などの既存の統計解析手法を利用して、環境影響評価における指標性遺伝子の発現パターンの解析法について検討する。推定精度の向上を図るために、ブナのドラフトゲノムの再アセンブリと遺伝子アノテーションの精緻化に関する作業を併行して実施する。 (3) ゲノム網羅的な指標性遺伝子による環境影響評価では、(1)の環境ゲノムデータと(2)の解析手法に基づき、環境影響評価の試行を実施する。 (4) 少数の指標性タンパク質による環境影響評価では、ペプチドフィンガープリンティング法により網羅的なタンパク質発現量の解析を行い、mRNA量の変動との分子生理学的な解釈が可能な指標性の高いタンパク質の選抜を行う。初年度の課題となった検出精度について向上を図るための実験条件の検討作業を併行して実施する。
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