研究課題/領域番号 |
17H01887
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宮越 順二 京都大学, 生存圏研究所, 特任教授 (70121572)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 電磁波影響評価 / 共鳴送電 / ワイヤレスエネルギー伝送 / 発がん性 / 細胞機能 |
研究実績の概要 |
400kHz帯域の磁界共鳴送電下における細胞影響評価に必要となる共鳴送電細胞ばくろ装置の伝送効率の向上に取り組み、スパイラル型コイルの巻数や巻間隔、それらコイル設置のための架台(テフロン樹脂製、一部アクリル材を使用)の構造、寸法等の調整を踏まえ、ネットワークアナライザによる計測により、その送電特性は、自己共振周波数445kHz、伝送効率は83%超に向上させることができた。続いて、CO2インキュベータ内でのコイル再構築および細胞培養皿の適切な温度管理を実施するための細胞培養台の構築に取り組んだ。 温度制御には恒温水循環方式を採用することとし、アクリル材加工による中空の円筒を送受電コイル間に設置する構造とした。本細胞培養台のサイズは、60mm細胞培養皿を4枚設置することが可能である。恒温水の水流は、円筒中央より上部より入水し、円筒内部を満水しつつ、円筒端部上部より分かれて出水され、恒温循環水槽が接続されている。これで培養細胞の適切な温度管理が可能となった。送受電コイル間への大サイズの培養台の構築により、送電特性の低下が生じ、その結果、自己共振周波数466kHzにおいて伝送効率は66%程度となった。 さらに、平成30年度以降の遺伝毒性試験に備え、ばく露装置が正常培養環境を保持しているかについて、本実験の開始前に、細胞基本動態試験を行った。基本動態である増殖能、コロニー形成能、細胞周期分布について調べた。本実験で使用する予定のヒト眼部由来の細胞株HCE-T(ヒト角膜上皮細胞)を用いた。試験の結果は、対照インキュベータとして比較してばく露装置との差は観察されなかった。 以上の結果から、H29年度は、400kHz帯域の磁界共鳴送電下における細胞影響評価のために必要となる共鳴送電細胞ばく露装置の開発に取り組み、ばく露装置の細胞培養安定性を評価し、細胞培養が適正であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度に入り送電特性向上の取組に再び時間を費やしたものの、CO2インキュベータ内への装置構築を完了し、細胞培養安定性評価を終えている。平成具体的には、平成29年度研究実績の概要重複するが、(1)400kHz帯域の磁界共鳴送電下における細胞影響評価に必要となる共鳴送電細胞ばくろ装置の伝送効率の向上に取り組んだ。(2)続いて、細胞培養に用いるため、CO2インキュベータ内でのコイル再構築および細胞培養に必要となる細胞培養皿の適切な温度管理を実施するための細胞培養台の構築に取り組んだ。温度制御には恒温水循環方式を採用することとし、細胞培養台として、アクリル材加工による中空の円筒を送受電コイル間に設置する構造とした。細胞培養台により培養細胞の適切な温度管理が可能となったが、送受電コイル間への大サイズの培養台の構築により、送電特性の低下が生じ、結果、自己共振周波数466kHzにおいて伝送効率は66%程度となった。(3)平成30年度以降の遺伝毒性試験に備え、400kHzばく露装置がアーチファクトのない正常培養環境を保持しているかについて、細胞基本動態試験を行った。具体的には増殖能、コロニー形成能、細胞周期分布について調べた。ヒト眼部由来の細胞株HCE-T(ヒト角膜上皮細胞)を用い、対照として、同じ指標の細胞試験を通常のCO2インキュベータを用いて、同時に行った。(4)実験結果として、細胞増殖能は、コロニー形成能、ならびに細胞周期分布のすべてに関して、400kHzばく露装置と通常インキュベータで違いは見られなかった。したがって、本ばく露装置は、中間周波帯影響評価実験に使用可能であることが確認されたので、30年度にはコイルへの通電により共鳴送電を実施した状況下で同様に細胞影響評価に取り組んでいく。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度の研究成果から、中間周波帯400kHzの細胞ばく露実験が可能となった。平成30年度には、以下の研究を推進する計画である。 (1)400kHz帯共鳴送電で発生する電磁波の、細胞を用いた発がんへの影響評価研究を行う。国際的にも推奨され、世界保健機関(WHO)や国際がん研究機関(IARC)も発がん性や他の健康影響を評価する際に主要な生物指標として認めている細胞遺伝毒性、つまり、細胞内DNA鎖切断・損傷を評価するため、小核形成試験ならびにコメットアッセイを行う。小核形成については、比較的大きな損傷が生じたときに、細胞核からDNAのフラグメントが遊離して、細胞分裂時に小核を形成するもので、蛍光染色で確認する。コメットアッセイについては、DNA鎖切断を検出するもので、それぞれアルカリ条件を中心として、DNA電気泳動を行い、コメット専用検出ソフトで解析する。 (2)電界強度・磁界強度の測定結果の比較、および数値解析を行う。つまり、400kHz帯共鳴送電装置を用いて無線電力供給時の周辺電磁環境評価について、フィールドメーターを活用し、無線電力供給時や受信側回路を除いた状態での電界強度・磁界強度の測定結果の比較、および数値解析結果の比較も行う。 (3)細胞の機能的変化で注目されているストレス応答(WHOも特に関心をもっている)について解析する。電磁波の影響として、細胞内イオン輸送が制御され、その結果、シグナル伝達の促進や抑制により遺伝子発現の変化する可能性が考えられている。(文献番号1, 3, 9)熱ショックタンパク(HSP)を中心として、ストレスタンパクの遺伝子発現をタンパク電気泳動ならびに遺伝子発現解析キットを用いて調べる。さらに、機能変化として、電磁波ばく露後の細胞形態ならびに遊走能についても解析、評価する。
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