研究課題/領域番号 |
17H01887
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宮越 順二 京都大学, 生存圏研究所, 特任教授 (70121572)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 電磁波影響評価 / 共鳴送電 / ワイヤレスエネルギー伝送 / 発がん性 / 細胞機能 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、無線エネルギー送受電システムから発生する電磁環境の安全性評価を目的としている。400kHz帯域の磁界共鳴送電下における細胞影響評価に必要となる共鳴送電細胞ばくろ装置の伝送効率の向上に取り組み、 ばく露装置の細胞培養安定性を評価し、細胞培養が適正であることを確認した。平成30年度は、ワイヤレス電力伝送(WPT:Wireless Power Transmission)システムに使用される電磁波により、生体にどのような影響が見られるかを検索するため、電波の生体表面からの深度を考慮して、ヒト角膜由来上皮細胞(HCE-T細胞)を用い、400kHz帯域電波ばく露による遺伝毒性指標である小核(Micronucleus: MN)形成頻度、コメットアッセイ(DNA鎖切断)試験および生理的影響評価の1つとして熱ショックタンパク(Heat shock protein: Hsp)発現試験を実施した。その結果、400kHz帯域ばく露(条件:160A/m、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)の職業者ガイドライン80A/mの2倍、1時間)を行ったHCE-T細胞において、有意な小核形成上昇が観察された。ただ、DNA鎖切断の指標であるTail Momentの上昇は観察されなかった。また熱ショックタンパク、Hsp-70に関して、ばく露による発現量の増加は認められなかった。以上のことから、HCE-T細胞において、400kHz帯域電波ばく露によるストレスタンパク発現誘発への影響はないか極めて低いものと考えられるが、細胞遺伝毒性について、特に小核形成増加を示す結果が得られたことから、遺伝毒性への影響を及ぼす可能性が考えられる。ただし、DNA鎖切断の指標では影響は認められなかったため、他の指標を用いた評価研究を進め、総合評価する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
送電特性向上の取組に少々時間を費やしたものの、すでにCO2インキュベータ内への装置システム構築を完了し、細胞培養安定性評価を終えている。平成30年度にはコイルへの通電により共鳴送電を実施した状況下でに細胞影響評価に取り組んできた。ワイヤレス電力伝送(WPT:Wireless Power Transmission)システムに使用される電磁波により、生体にどのような影響が見られるかを検索するため、電波の生体表面からの深度を考慮して、ヒト角膜由来上皮細胞(HCE-T細胞)を用い、400kHz帯域電波ばく露による遺伝毒性指標である小核(Micronucleus: MN)形成頻度、コメットアッセイ(DNA鎖切断)試験および生理的影響評価の1つとして熱ショックタンパク(Heat shock protein: Hsp)発現試験を実施した。その結果、400kHz帯域ばく露(条件:160A/m、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)の職業者ガイドライン80A/mの2倍、1時間)を行ったHCE-T細胞において、有意な小核形成上昇が観察された。ただ、DNA鎖切断の指標であるTail Momentの上昇は観察されなかった。また熱ショックタンパク、Hsp-70に関して、ばく露による発現量の増加は認められなかった。以上のことから、HCE-T細胞において、400kHz帯域電波ばく露によるストレスタンパク発現誘発への影響はないか極めて低いものと考えられるが、細胞遺伝毒性について、特に小核形成増加を示す結果が得られたことから、遺伝毒性への影響を及ぼす可能性が考えられる。ただし、DNA鎖切断の指標では影響は認められなかったため、他の指標を用いた評価研究を進め、総合評価する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
世界保健機関や国際がん研究機関は、電磁波の発がん性や他の健康影響を評価する際に主要な細胞レベル指標として認めている細胞遺伝毒性、つまり、細胞内DNA鎖切断・損傷を評価するため、小核形成試験ならびにコメットアッセイを推奨している。主として、平成30年度には400kHz帯域電磁波ばく露の細胞遺伝毒性を評価した。無線エネルギー伝送において、電波ばく露の可能性が高い皮膚表皮での反応がどのような影響を及ぼすか検討する必要がある。そこで、平成31年度には、表皮における細胞である角化細胞(ケラチノサイト)を用い、皮膚免疫応答の測定を行う。ケラチノサイトは、皮膚への刺激により種々のサイトカインを産生する。サイトカインは、様々な免疫応答によって産生される多種多様な機能を持った体内物質で、ホメオスタシスに非常に重要な役割を果たしている。これらのサイトカインのバランスが崩れるとアレルギーなどの免疫疾患につながることから、400kHz帯域電波ばく露によるサイトカインの変化を検索することは非常に有意義である。平成30年度に実施した発がん性評価以外に、WHOが研究推奨している1つの分野である400kHz帯域電波による免疫応答について解析する。また、皮膚アレルギー反応に関与するヒスタミンへの影響について検索する。なお、これらの評価実験は、生体への安全性を評価することを目的としており、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)のガイドライン相当の曝露条件を考慮に入れて行う。
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