研究課題
従来方式および対向拡散方式のバイオフィルムを形成可能なフローセル装置による排水通水試験を継続し、形成されるバイオフィルム内の機能遺伝子量と窒素除去性能を評価した。バイオフィルム内のN2O生成・消費に関する機能遺伝子量は従来方式および対向拡散方式で大きな違いがないことを明らかにした。また、バイオフィルムから生成されるN2O量は、対抗拡散方式のバイオフィルム内で少なくなること、窒素除去性能は対抗拡散方式で高くなることを確認した。次に、形成された各バイオフィルムの微生物叢を解析した。具体的には、DNAの抽出を行った後、16S rRNA遺伝子のアンプリコンを次世代シーケンサーにより解読した。さらに予測メタゲノム手法を適用することにより、N2O生成・消費に関連する細菌群の同定を行った。従来方式および対向拡散方式のバイオフィルムに関わらず、Comamonadaceae科、Rhodocyclaceae科、Xanthomonodaceae科がN2Oの生成に関与する可能性のある細菌群として検出された。一方、Rhodocyclaceae科、Saprospiraceae科がN2Oの消費に関与する可能性のある細菌群として検出された。N2Oは脱窒反応の中間反応物としても生成されるため、検出されるN2O濃度はN2Oの消費と生成の正味のものであり、どれくらいN2Oが消費され、生成されているかを個別かつ正確に評価することは困難であった。そこで、安定同位体15Nでラベルされた亜硝酸イオン(15NO2-)を分子量44のN2Oと同時に供給し、15NO2-が変換されることにより生成される分子量の異なるN2およびN2Oを定量し、N2Oの生成速度・消費速度を同時に検出できる手法を開発した。実生活排水処理施設において、嫌気度が高い条件下でのN2O生成機構について検討を進めた。低pHおよび硫化水素の存在下で硝酸イオンが混ざることにより、高濃度のN2Oが生成されることを示した。
2: おおむね順調に進展している
参画する研究者間で密な連携を図ることにより、15Nトレーサーを用いたN2O生成・N2O消費速度の定量、次世代シーケンサーを用いた微生物叢解析、N2O生成メカニズム解明試験を継ぎ目なく進めることができた。よって、概ね順調に進展していると判断した。
昨年度の検討により、15Nトレーサーを用いたN2O生成・N2O消費速度を定量できる手法の確立が行えた。今年度は、従来方式・対抗拡散方式のバイオフィルム内のN2O生成・消費速度の定量を行い、対抗拡散方式のバイオフィルムにおいてN2O生成量が少なくなる理由について答えを見出していく。また昨年度の検討を通して、対抗拡散方式のバイオフィルムはN2O排出量の低減に寄与できることを示した。この結果をもとに、N2Oを含む曝気槽の排気ガスをガス透過膜のモジュールを介して循環・供給する新しい排水処理プロセスの開発に取り組む。ガス透過膜上に形成されるバイオフィルム内のN2O消費細菌群により、開発する排水処理プロセスから排出されるN2Oをどれだけ低減できるかを評価していく。実排水処理施設の評価では、微生物叢解析や機能遺伝子量の定量を行うことにより、昨年度明らかになった現象の理論的裏づけとなるデータを得る。今年度は最終年度であるため、研究分担者と連携をさらに密にすることで、上述した内容を解析・論文化を鋭意行う。対抗拡散方式のバイオフィルムが温室効果ガス排出の削減に寄与できる優れた省エネ型排水処理技術であることを喧伝していきたいと考えている。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
Clean Technologies and Environmental Policy
巻: 21 ページ: 1001-1011
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Journal of Bioscience and Bioengineering
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10.1016/j.jbiosc.2018.02.014