研究課題
本研究では、下水処理プロセスより分離培養に成功した数少ない原生動物株を用いて、その生物活性を支えていると考えられる共生微生物の役割について明らかにすることを目的としている。沖縄県内の下水処理施設から分離培養に成功した嫌気性繊毛虫であるGW7株について、R1年度までに、2つの細胞内共生体の帰属を16SrRNA遺伝子の解析により推定するとともに、それらの細胞内での局在性について蛍光in situハイブリダイゼーションと超薄切片の電子顕微鏡観察により明らかにすることができた。また、本研究で新たに見出したバクテリア共生体は、candidatus Hydrogenosomobacter endosymbioticusと命名して、これまでの結果を論文としてまとめて報告することができた。GW7株についてはさらに、共生体を抗生物質で処理した際の代謝産物の変化を有機酸分析により解析した。GW7株に共生するメタン生成菌とバクテリア共生体はともに水素を生産するヒドロゲノソームに密着して存在していることから、両者が水素代謝に関与している可能性があると考え、抗生物質で共生体を処理した際にGW7株の代謝産物が変化することが期待された。その結果、抗生物質によりバクテリア共生体を除去した際には、代謝産物としてプロピオン酸が生成され、メタン生成菌を除去した際には、さらに酢酸が生成されることが示された。これらの結果は、両者が水素代謝により宿主の余剰還元力処理に寄与していることを示しているが、これらを検証するために、さらに詳細な解析を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究の申請当初の計画では、H30年度までにトリミエマ原虫とその2つの共生体の機能推定、ならびに代謝ネットワークを解明することを目指しており、当該年度内に主にバクテリア共生体のゲノム情報を中心として論文投稿を行った。しかしながら、論文が不採択となったことから、現在、宿主トリミエマの共生体を抗生物質で処理した際のRNAseqデータを追加して論文の再構成を進めている。もう一方の原生動物株であるGW7株については、宿主ならびに共生体の系統学的帰属と、それらの細胞内分布の解析が予定通り進捗し、年度内に論文として報告することができた。また、R1年度は、それぞれの共生体の機能解析を行う上で重要な、抗生物質処理による宿主代謝産物の変化についてもデータを得ることができた。また、共生バクテリアのゲノム解析についても、解析に必要な質と量を満たすゲノム調製方法を確立している。これらの経過を総合的に判断して、全体計画はおおむね順調に進展していると判断した。
トリミエマ原虫に関しては、共生バクテリアのゲノム解析ならびに宿主のRNA-seq解析のデータを早急にまとめて、論文として報告することを最優先として進める。この論文は今後、GW7株の共生体の機能解析を進める上でもモデルとなる。GW7株については、R1年度内に、共生体の系統学的帰属や宿主細胞内での分布といった点を明らかにして報告することができた。また、2つの共生体を保持した野生株の代謝産物組成、ならびに、抗生物質処理した際の代謝産物の変化を有機酸分析でデータを取得しており、今後はこれらのデータを詳細に解析することで共生体の役割について明らかにしていく予定である。GW7株のバクテリア共生体については、トリミエマ原虫のTC1共生体同様に全ゲノム情報の解読を進める予定であり、解析に必要な質ならびに量を満たすゲノムの調製を行う。原生動物の凍結保存法の検討については予備検討を進めているが、現状見通しが立っておらず、凍結保護剤や凍結方法についてさらなる条件検討が必要である。
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Applied and Environmental Microbiology
巻: 85 ページ: e00854-19
10.1128/AEM.00854-19