本研究では、下水処理プロセスより分離培養に成功した数少ない原生動物株を用いて、その生物活性を支えていると考えられる共生微生物の役割について明らかにすることを目的としている。 沖縄県内の下水処理施設から分離培養に成功した嫌気性繊毛虫であるGW7株について、昨年度までに、2つの細胞内共生体の帰属を16SrRNA遺伝子の解析により推定するとともに、それらの細胞内局在性について蛍光 in situ ハイブリダイゼーションと超薄切片の電子顕微鏡観察により明らかにしてきた。 今年度は、共生体のゲノム情報を明らかにするために、GW7株から調製した共生体画分よりゲノムDNAを抽出し、ショットガンシーケンスならびに共生体ゲノムの再構築を試みた。その結果、別途、共生が確認されていたメタン生成菌であるメタノレギュラならびに、バクテリア共生体であるヒドロゲノソモバクター・エンドシンビオティカスのゲノムをほぼ完全長で再構築することができた。中でもヒドロゲノソモバクターのゲノムは827kbと非常に縮退しており、多くの代謝系の遺伝子を失っていた。このことは、ヒドロゲノソモバクターが長い期間にわたって、GW7株と共生関係にあったことで、自由生活する上で必要な遺伝子を欠失していった結果であると考えられた。 その一方でヒドロゲノソモバクターには脂肪酸の合成経路の遺伝子群がよく保存されており、これらの点が原生動物内での共生体の機能を明らかにする上で大きなヒントになると考えられた。本件については今後得られたゲノムを詳細に解析することによって明らかにしていく予定である。
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