研究実績の概要 |
今年度は、黄砂表面の反応によって生成する可能性のあるPAHキノンについて、生体影響との関連を明らかにすることを目指し以下の実験を行った。 正常ヒト気道上皮細胞株BEAS-2B細胞を使用し、細胞活性を、Water soluble tetrazolium-1(WST-1)を用いた比色法により、Apoptosis、Necrosisの検出を、ANNEXIN V-FITC/7-AAD KITを用いた検出法により、interleukin(IL)-6、IL-8、soluble intercellular adhesion molecule(sICAM)-1などのサイトカインの産生を、Enzyme linked immuno sorbent assay(以下ELISA)法により、酸化ストレス評価をReactive Oxygen Species(ROS)生成の測定により、それぞれ解析した。被検物質として、4,5-ピレンキノン(4,5-PyQ)、1,8-PyQ+1,6-PyQ、ピレンを用いた。 ピレンが殆ど毒性を示さなかったのに対し、そのキノン体である4,5-PyQ、1,8-PyQ+1,6-PyQには毒性が確認された。特に4,5-PyQは低濃度でも著しい細胞活性の低下と細胞死を示し、1,8-PyQと1,6-PyQの混合物よりも強い毒性を持つことが示された。また、それは細胞内外のROS産生が一部関与している可能性が考えられた。催炎症性の液性因子(IL-6, IL-8, sICAM-1)の産生は、一部の曝露濃度に呼応して増加も観察されたが、キノン体の高濃度での急激な減少の方が目立ち、これは、急激な細胞死により減少したと推察される。従って、ピレンよりも、そのキノン体の方が、呼吸器疾患の悪化に深く関与する可能性があり、酸素の配位置によってもその影響が異なることが示唆された。
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