研究課題
今年度は,これまでに報告のなかったピレンキノン異性体[4,5-Pyrenequinone (4,5-PyQ) 及び 1,6-/1,8-Pyrenequinone (1,6-/1,8-PyQ) 混合物]についてのDTT(Dithiothreitol)アッセイを行い酸化能を評価した。それらの実大気中濃度をもとに,大気粒子酸化能に対する寄与を見積もったところ,4,5-PyQの寄与率が特に高くおよそ18 %となった。ROS活性が高いことで知られている9,10-フェナントレンキノン(PheQ)と4,5-PyQの寄与率の合計は約32%となり,これら2物質のみで大気PM酸化能のおよそ1/3が説明できることとなった。このように,4,5-PyQはPMの酸化能に対する寄与が大きく重要な物質であることが,本研究により初めて明らかとなった。また,実大気観測ではPheQ濃度は黄砂飛来時に増加したことが確認され,黄砂表面における二次生成の可能性が疑われた。そこで,室内反応実験では黄砂を模した種々の鉱物粒子表面においてPhe-オゾン酸化反応を実施し,反応後の粒子上における残存Pheおよび生成物の濃度経時変化を追跡した結果,PheQの生成が確認されるとともに,多くの鉱物粒子上においては開環酸化物1,1’-Biphenyl-2,2’-dicarboxyalde¬hyde(BDA)が高収率で得られた。生成物の分布を基に種々の鉱物粒子上の結果を分類したところ,モンモリロナイトやカオリナイトといった粘土鉱物においてはPheQの生成量が多くなる傾向が見受けられ,粘土鉱物の固体酸としての性質がPheQの生成に大きく寄与するものと推察された。
2: おおむね順調に進展している
黄砂表面で二次生成する可能性があるピレンの酸化体(キノン)について,DTTアッセイによる酸化能の評価を初めて行うことができ,その結果ピレンキノンが大気環境科学上極めて重要な毒性物質であることを世界に先駆けて明らかにすることができた。また,毒性の高いPAHキノンが黄砂表面で二次生成することを観測・実験の両面から明らかにした。
今後は生体影響評価と並行して,毒性が高いことが明らかとなったピレンキノンを含むPAHキノンの黄砂上非意図的生成に関わる反応について,実験系を用いた反応実験および実大気観測を引き続き行い,A)黄砂によって触媒される大気内PAHキノン生成反応過程の解明,B)実大気中の黄砂表面における有害PAHキノン生成の検証を行うとともに,C)化学計算による反応メカニズムの解析も試みる。
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大気化学研究
巻: 39 ページ: 039A03
第31回環境工学連合講演会講演論文集
巻: 31 ページ: 13-16