研究課題
今年度はROS活性が高い9,10-フェナントレンキノン(PheQ)を対象物質とし,昨年度に引き続き室内反応実験を行うとともに,理論化学計算によって黄砂表面におけるPheQ二次生成の可能性に関する検証を行った.室内反応実験では,昨年度と同様に黄砂を模した種々の鉱物粒子表面においてフェナントレン(Phe)-オゾン酸化反応を実施し,反応後の粒子上における残存Pheおよび生成物の濃度経時変化を追跡した.その結果,PheQの生成が確認されるとともに,多くの鉱物粒子上においては開環酸化物1,1'-Biphenyl-2,2'-dicarboxyaldehyde(BDA)が高収率で得られた.生成物の分布を基に種々の鉱物粒子上の結果を分類したところ,モンモリロナイトやカオリナイトといった粘土鉱物においてはPheQの生成量が多くなる傾向が見受けられ,粘土鉱物の固体酸としての性質がPheQの生成に大きく寄与するものと推察された.この結果と先行研究の知見を踏まえ, PheQ生成経路およびBDA生成経路をそれぞれ提案し,密度汎関数法(B3LYP/6-31G(d)レベル)を用いて機構探索を行った.その結果,PheQ生成経路における律速段階の活性化自由エネルギーは43.3 kcal/molと高く,室温条件では反応が極めて進行困難であることが示唆された.実環境においては粒子上の吸着水が共存し得るため,水分子を介して反応が進行する場合についても同様に計算したところ, PheQ生成経路における律速段階の活性化自由エネルギーは29.2 kcal/molまで低下し,水分子による触媒効果が認められた.粘土鉱物が有する酸点は水が共存する場合と類似したメカニズムで活性化自由エネルギーを低下させ,PheQの生成を促進したものと推察される.
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
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