研究課題/領域番号 |
17H01907
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井原 賢 京都大学, 工学研究科, 特定助教 (70450202)
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研究分担者 |
長江 真樹 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 教授 (00315227)
田中 宏明 京都大学, 工学研究科, 教授 (70344017)
征矢野 清 長崎大学, 海洋未来イノベーション機構, 教授 (80260735)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 抗うつ薬 / GPCR作用薬 / 培養細胞試験 / 魚行動試験 / 下水 / ジフェンヒドラミン |
研究実績の概要 |
今年度は下水中の抗うつ薬の生理活性を検出する細胞試験法(抗うつ薬アッセイ)の開発に成功した。初めに、抗うつ薬の標準品を用いて試験法の開発を行った。抗うつ薬は大きく分けて、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs) セロトニン-ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRIs)、三環形抗うつ薬(TCAs)の3種類に分けられ、これらはそれぞれセロトニントランスポーター(SERT)、ノルエピネフリントランスポーター(NET)およびドーパミントランスポーター(DAT)に作用することで薬理活性を示すことが知られている。本研究の抗うつ薬アッセイではトランスポーターの蛍光基質を利用した。初めに、抗うつ薬の標準品を用いて、SERT,NET,DATに対する抗うつ薬の活性の強さを評価した。その結果、市販の抗うつ薬9種類の薬理活性の強さを比活性値として把握することができた。本研究で得られた比活性値は各々の抗うつ薬の特性とよく一致しており、本研究の抗うつ薬アッセイが抗うつ薬の生理活性の評価に有効であることが確認できた。SERTに対する抗うつ薬を混合した際の複合影響を検証した結果、抗うつ薬は相加作用を示すことが確認できた。 下水処理水に対しても抗うつ薬アッセイを行った。水処理場放流水の抗うつ薬濃度をSertraline当量(ng-Ser/L)に換算した結果、19~150(ng-Ser/L)と定量できた。 医薬品が魚類の行動に影響を及ぼすか否かを検討するため、ジフェンヒドラミンをミナミメダカに暴露し、通常時の行動をビデオ観察した。その結果、ミナミメダカにジフェンヒドラミン塩酸塩を1μg/Lと10μg/Lとなるように暴露したところ、後者では暴露翌日より水槽のガラス面に衝突する行動が観察された。前者でも暴露3日目より同様の行動が観察された。このようにジフェンヒドラミンは魚類に異常行動を誘発することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画どおりに、抗うつ薬アッセイを開発することができた。また、当初計画していなかった、抗うつ薬の複合影響の検証も行うことができた。その結果、抗うつ薬は相加作用を示すことを確認できた。これは世界でも初の成果である。また、下水中の有機物が抗うつ薬アッセイの結果に与える影響の検証を詳細に行うことで、抗うつ薬アッセイを下水試料へ適用する際の注意点、適用制限を明確化することができた。この点も当初想定以上の成果である。 本年度は、ジフェンヒドラミンを用いた暴露試験によって魚類の行動への影響を観察するための基盤を整えることを目的としたが、ミナミメダカを用いてその影響観察に成功した。また、ジフェンヒドラミンが魚類に異常行動を誘発することを明らかにすることが出来た。ビデオ解析手法等については、さらに検討する必要があるものの、今後研究を進めるための基盤は十分に整ったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、下水中の抗うつ薬とGタンパク連結型受容体(G-protein Coupled Receptor: GPCR)の標的薬(GPCR標的薬)の生理活性を、開発した培養細胞試験を用いて調査する。 また、培養細胞試験で発現させるトランスポーターおよびGPCRは、現在はヒト遺伝子を用いているが、魚遺伝子を用いた培養細胞試験の実現を目的とする。具体的には、データベース上でメダカまたはゼブラフィッシュのトランスポーターやGPCR遺伝子の塩基配列情報を入手し、その遺伝子を発現するプラスミドを市販のサービスによって合成する。標準物質を用いて試験することで、魚遺伝子の抗うつ薬やGPCR標的薬に対する反応性を確認するとともに、ヒト遺伝子との違いを明確化する。この情報は、抗うつ薬やGPCR標的薬が魚等の水生生物に与える影響を評価する上で極めて重要な情報を提供してくれる。 本年度はジフェンヒドラミンを用いてミナミメダカの通常行動への影響解析を実施したが、今後は産卵行動についても検討する予定である。また、より低濃度の暴露試験を実施し、異常行動を誘発するジフェンヒドラミンの閾値についても検討する。加えて、他の医薬品についても同様の検討を進める必要がある。さらに、アユやボラなどの稚魚を用いた試験を実施し、他の魚類への影響を検討する。
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